ルーキウス王国にある炎のダンジョンはその名の通り、火山性のダンジョンであり、熱いマグマが流れている。危険と言うこともあり、封鎖されているし、近付こうとする人間は普通いない。
 ダンジョンにはたった一人の番人がいる。すでに肉体は滅び、魂だけの存在となった孤独な番人。だが、魂だけとなっていても、その存在感には驚異を抱かせる。ダンジョン内のモンスター達ですら、彼に畏怖を覚えている。もっとも、ロイは彼らには干渉はしない。この国の人間に危害を加えるわけではないのなら、その必要はないからだ。
 六百年、彼は孤独だった。誰も彼の存在を知らないまま。それは彼が望んだことでもあったから。“めでたし、めでたし”で終わる、全てが幸福な物語として……。


 何も変わらぬ一日が今日も過ぎ行くと思っていた。最近は色々なことがあったためか、妙に退屈にも思えてくる。金色の髪の少年と青い髪の青年。かつての自分達のような二人は彼の中に懐かしさとわずかな寂しさを覚えさせた。
(俺達の望んだ未来の結末は叶えられたままなんだな……)
 平和な国で育ったと言うことが二人の様子からわかった。初めて会った時にはゴタゴタしていたけれど、その後、何度か訪れてくれる二人から話を聞いてそう思えた。…青い髪の青年の苦労振りを見ていると、昔の自分を思い出すようで複雑ではあったけれど。見た目が煮ているなら、中身も似てしまうんだろうかと本気で思いもした。
(サインを求められた時にはどうしようかとは思ったがな……)
 そして、その願いを叶えることになった時にも。イタコの実を使い、青い髪の青年の中の身体に入った時には、600年ぶりの生身の身体で触れることが出来た遠い甥。面影を残してはいるけれど、幼い子供。共に旅をした青年と妹の血を受けた……。見ることが叶わなかった未来をこうして触れることが出来た。それだけでいい。自分の選んだ道はきっと間違っていなかったのだ、と思えた。


 だが、不意に空気が変わったことにロイは気づいた。
(……モンスターたちの様子がおかしい?)
 モンスターたちは普段は自分たちの毎日を送っている。ロイも彼らには干渉しない。ある意味、共存していると言ってもいい関係だ。ずっとこの地にいるのだ。様子がおかしいことなんて、すぐにわかる。
「何かあったのか?」
 まじしゃんに聞いてみても、彼らはおびえたように首を振るだけ。まじしゃんは強力なモンスターだ。そのまじしゃんがおびえると言うことはそれだけの脅威があると言うことだ。
(何が……?)
 モンスターたちがおびえる方向を見つめてみる。すると、そこには見慣れぬ人影がいた。
「お前は……?」
 見慣れぬ人影にロイは身構える。ここを訪れる人物なんて、そうはいない。いるはずがない。ゆっくりと、その人物はロイに近づいてきた。その人物の背に見えるのは片欲の翼。思い当たるのはたった一つ。
「ウルネリスの…一翼……!」
 魂だけの存在であるのに、何故だかのどがひどく渇く気がした。

…ちょっと、シリアスを書いてみたくなったので。あうあう

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