sulk

日の曜日。
約束の地の樹の下。

「わたし、女王陛下に憧れてるの。」
「・・・・・は?」

無邪気にも宣うた少女に青年は一瞬驚き、そしてムッと顔を顰める。
「おまえだって女王だろ?憧れるのも結構だが、他にやる事あるんじゃねぇの?」
自分でも判るくらい大人げない言葉を、アリオスは不機嫌そうな口調でアンジェリークに問い返す。

自分以外の人間に対して好意を示す言葉を、目の前の少女の口から聞かされるのは面白くない。
たとえその相手が女であってもだ。
極論を言えば、他の奴等をその蒼い瞳に映される事さえ嫌なのだから。
彼が不機嫌になるのも無理はない。
ただ残念ながら、彼女にはそこまで考えが及ばなかったが。

「それは・・・・そうなんだけど。」
「だいたい、俺は彼女がそんなにすごいとは思わねぇな。」
「どうして?」
「・・・・・ちょっとおまえに似てるとこもあるし。」
不服そうな顔をされ、アリオスは渋々心にもない台詞を口にする。
そうそう誰かと似ててたまるかと身の内で毒づいて。
「そ、そう?」
自分の言葉を聞き少し嬉しそうに見上げる少女に、ふと頭にからかいが浮かび口の端を上げる。
「ドジなとことかな。」
「っ!し、失礼ね!わたしも陛下もそんなにドジじゃないわよ。」
「何もないところですっ転ぶのにか?」
「う・・・・・」
先程花畑の入り口で走って見事にコケた彼女は言葉に詰まる。
その表情を面白そうに笑って、彼は付け加える。
「だからおまえも捨てたもんじゃねぇよ。・・・・たぶんな。」
「アリオス・・・・ありがとう。」
「どういたしまして。・・・・そろそろ行こうぜ。」
にっこり笑って礼を言うアンジェリークに機嫌を直し、アリオスは彼女を促す。

「あっ、でも・・・・」
「あぁ?」
けれどなにかに気が付いたように口元に手を当てる彼女に、彼は歩み出そうとした足を止める。
「すごいと思わないのに、どうして陛下の力が欲しかったの?」
悪気なく素直に昔のことで首を傾げられ、アリオスは顔を引き攣らす。
「お、おまえな・・・・」
「なに?」
きょとんと見上げる純粋な透き通った瞳を睨むように眉を顰める。

ボケてるのか、ニブいのか、はたまたトロいのか。
まるで彼の心中を理解できないでいる彼女に、小さく溜め息を吐く。
あの金の髪の女王がアリオスにとってすごくないのか、なぜ気が付かないのか?
さっき彼が不機嫌になった理由が、なぜ判らないのか?
本当に腹立たしい。

「あの時はあの時だ。今はすごいだなんてすこっしも思わねぇんだよ。」
「どうして?陛下は今も昔も変わらずにすごいわ。」
青年の言葉に少女は少し頬を膨らます。
まったく、なぜこういう時だけ鋭いのか?
その鋭さに苛立ち、彼は色を違えたその瞳を細める。
どうやらはっきり教えてやらないと判らないらしい。
「・・・・・おまえの方がずっとすごいって判ったからだよ。」
向き直って、真実を紡いでみせる。
そして褒めてやった報酬を貰うとばかりに腰を屈め、驚きで目を丸くした彼女に口付ける。
「おまえがすごすぎるから、他の奴等がすごいだなんて思えないんだぜ?」
「そんな・・・・・わたし、すごくなんて、ないわ。」
「なんでだ?」
「だって、わたし、あの時あなたを・・・・」
助けられなかったと動こうとする唇を再び塞いで、その言葉を飲み込む。
「・・・・んなこたぁ、別にいいんだよ。それでも俺にすごいと思わせるのは、アンジェ、おまえだけなんだ。」
涙目で困ったように眉を寄せる真っ赤な顔に小さく笑う。
「クッ、この俺が認めてやってるんだぜ?だから、自信持て。誰かに憧れたりなんてするな。・・・・・判ったな?」
「うん・・・・・」
笑顔を向けられて、少女も微笑み返す。

「・・・・ま、どうしても誰かに憧れたいって言うならな、」
「え?」
「俺にしとくんだな。」
「え?え??」
「ったく、あんな女なんかに憧れるんじゃねぇ。」

それだけ言うと、アリオスは忌々しいと言う表情で歩き出す。
けれどアンジェリークはそれが嫉妬だということにはやっぱり気付かずに、その物言いに一瞬呆気に取られる。
「・・・・?!ちょっ、まっ、待ってよぉ!どういうこと?!あんな女だなんて、陛下に失礼でしょう〜っ!!」
はっと我に返って、慌ててふて腐れている彼を追い駆けたのだった。

KEYさまのサイト、< Welcome to Coral Island >で書かれた創作のバロディを書いて送ったら、お礼に…と戴いた創作です。
わらしべ長者って、こういうことを言うのですね。ありがとうございました〜。