それぞれのメリークリスマス

 冬の冷たい空気は頬に少しだけ痛い。だが、その分、空気が澄み切っている。夜空に輝く星の光がいつも
よりも、明るく見えるのもそのせいだ。

「寒くないか?」
 青年の問いに少女は首を振る。
「平気よ、アリオス。心配性ね」
「そうじゃねえよ。お前に風邪をひかれたら、後で俺が叱られるからな。『アナタがついてて、どうしてアンジェに
風邪をひかせるの』ってな」

 悪戯っぽく言葉を投げかけて、アンジェリークを引き寄せる。そして、自分の外套の中にくるんでしまう。
「あ、アリオス!」
 突然の行動にカァーッと真っ赤になる少女にアリオスはくすくす笑う。
「誰も見てねえんだから、かまわねえだろ?」
「で、でも…」
「暖かくないか?」
「…暖かいわ」
 うつむいて答える少女が可愛くて。そっと髪に口づける。今、自分のためだけに降臨してきた彼だけの天使なの
だから。

「子供は体温が高いって、嘘だな。こんなに冷え切ってる」
「また、子供扱いする…」
 そう言いながらも、すねた瞳でアリオスを見上げるアンジェリーク。
「ほら、そう言うところが子供じゃねえか」
「う゛…」
 反論できない自分がたまらなく悔しい。どんなに頑張ってみても、アリオスの方が上手なのだ。
「アリオスの馬鹿…」
 自分に出来ることはこうやって、そっぽを向くことだけ。早く追いつきたいのに。自分がとてももどかしい。
 今、二人がいるのは小高い丘の上。見下ろす先には星空とは違う輝きに溢れている。暖かくて、優しい、家の灯り。
この灯りの分、生活があり、それぞれの歴史が刻み付けられている。どうしてもそれを見たくて、アリオスにここまで
連れてきてもらった。

「あの光の分だけ、それぞれの幸せがあるのかなぁ…」
 微かな声でアンジェリークが呟く。アンジェリークにとっては短い時間。だが、この地上にとっては長い時間をかけて、
作られた灯りたち。

「昔の俺にはわからねぇけどな…」
「アリオス?」
 言葉の真意がわからなくて、首だけを後ろに向ける。
「灯りがついている家で、家族がいるって感覚は俺は知らないからな。昔の俺にはうっとうしいだけのもんだって感覚が
あったさ」

「じゃあ、今は?」
 ジッと見上げてくる瞳にアリオスは柔らかな笑顔を向ける。そして、ふわりとアンジェリークを抱きしめる。
「そうだな…今はこの天使が温めてくれるからな、体も、心も…」
「アリオス…」
 今、こうして二人がいる幸せ。二人、こうしていられる時間はまるで奇跡のよう。流した涙の重さも、傷つけた痛みも。今、
二人、こうしていられるためのものだったとすら思えてくる。それはたどった道を振り返った瞬間にも似ているかもしれない。

「私はすごく幸せ。だって、あなたが傍にいてくれるから…」
 そっとアリオスの手に自分の手を重ねて、アリオスを見上げるアンジェリーク。
「俺は…お前の為に存在してるんだからな…。お前が幸せなら、俺も幸福に決まってる…」
「じゃあ、私たち、今、この宇宙でで一番幸せな“二人”なんだ…」
 思いついたようなその言葉に二人、クスリと笑い合う。
「ああ、違いねぇな…」
「でしょ?」
 誰よりも優しく見詰め合う瞳。そして、どちらからともなく触れ合う唇。互いの思いに包まれて、幸せを確かめ合う。

 空の星たちは世界中のすべてに幸せの光を投げかける。世界じゅうのすべてを抱きしめるように…。

幸せな曲はすごく好きです。自分も幸せになれるから。だから、この幸せになれた気分を彼らに体験させたくて。
「あの日泣いたことも、いつかいい日になる」 特に、この二人にはこうあって欲しいもの。


|| <Going my Angel> ||