天使とリボン


 目が覚めると、妙に身体が重い感覚。頭も痛い。喉の奥が痛い。
「風邪、引いちゃったかなぁ……」
 少しばかり、寒気がする。どう考えても風邪。思い当たる原因もある。昨日、髪を結んでいたリボンが解けて、風にさらわれ、庭園の
噴水に落ちて。それを拾おうとして、バランスを崩し、噴水の水と仲良しになったのだ。

「育成しなきゃ……」
 頑張って起き上がり、着替え始める。定期審査が近いこともあるし、大陸の民のことを考えたら、風邪などで寝込んではいられない。
食欲はないが、食べないとロザリアが心配することも知っているから、軽くは食べようと思う。あれでいて、心配症なのだから。

 ピンポーン。ベルの音。
「はい、どうぞ」
 ちょうど、髪をとかし終えたところなので、返事をする。すると、入ってきたのは、闇を思わせる雰囲気をまとった青年。闇の守護聖、
クラヴィスである。

「おはようございます、クラヴィス様」
「……」
 にっこりと笑顔で挨拶するアンジェリークに答えず、すたすたとクラヴィスは近づいてくる。
「クラヴィス様?」
 戸惑うアンジェリークの額にクラヴィスの大きな手が当てられる。
「やはり…熱があるな」
「……?」
「昨日、噴水の水で濡れていただろう? もしや…と思ってきてみれば、熱がある」
「見てたんですか……」
 自分の失態を見られていたことに、アンジェリークは溜め息を吐く。できれば、一番見られたくない相手であったから。
「ひどくなる前に休んでおくがいい」
「で、でも。育成がありますから」
「無理して倒れでもすれば、あれがうるさいぞ」
「……」
 あれ…とは、言わずとも知れた、光の守護聖であるジュリアスのことである。
「でも、大陸のみんなが待っているんです……」
「……頑固だな」
 だが、それが彼女らしいと思ってしまう。
「ならば…ここで私がおまえの依頼を受けよう。そうすれば、おまえは外出せずに、ここで眠ることができるだろう?」
「……え?」
「おまえの大陸は闇の力を必要としている。違うか?」
「はい」 
 そう、昨日視察に言ったときに、闇の力を必要としていると言われた。
「で、でも…執務室でお願いしなきゃ……」
「私がここでいいと言っている」
 そう言うなり、アンジェリークを抱き上げて、ベッドまで連れて行く。
「きゃ……」
 ベッドに下ろすと、クラヴィスはアンジェリークに毛布をかけてやる。
「クラヴィス様……」
「大陸だけでなく…今のおまえにも安らぎは必要のようだな……」
 額に乗せられるクラヴィスの手の平。大きな手の平。
「あ……」
「どうした?」
「クラヴィス様の手って、大きいんですね……」
 クスクス笑いながら、アンジェリークは無邪気に思ったことを口にする。
「無駄に、身体だけが大きくなったと言われるからな……」
 あえて誰に…とは言わないが、いう相手は想像がつくから、深くは追求したくない。
「すごく…安心できます……」
「そうか……?」
「はい……」
 小さく欠伸をして、アンジェリークは瞳を閉じる。クラヴィスの手の平の暖かさを感じながら、いつしかまどろみの中に入っていった。

 ぴちゃん…水の音。フワフワ浮上していた意識が現実に戻って行く。額に乗せられる冷たいタオル。
「ん……」
「あら、目が覚めたのね」
「ロザリア……」
 目が覚めると、そこにいたのは、クラヴィスではなく、ロザリアの姿。
「どうして、ロザリアがいるの?」
「……あんたが倒れたって、ディア様に聞いたのよ。ディア様はお忙しい御方だから、わざわざあんたのために手を煩わせるのも何
だしね。仕方なく、私が見ていたのよ」

 仕方なく…を強調しているが、何となく照れくさそうな顔をしている。なんだかんだと言っても、面倒見がいい大切な親友なのだ。
「ありがとう、ロザリア。大好きよ」
「……!」
 無邪気に言ってのけるアンジェリークにロザリアの頬が微かに染まる。そう、ロザリアも少女を気に入っているのだ。生来のプライドの
高さから、口にすることはないけれど。何だかんだと面倒を見ているのは、構いたくて仕方ないから。

「いいこと、私とあんたはライバルなんですからね」
「でも…友達よね」
 ニコニコニコ。最強の笑顔を向けられれば、もうかなうわけがない。無敵の笑顔の天使なのだ。
「そう言うことにしてあげるわ」
 せめてもの悔しさでそう言ってはみるが、言われた本人はにこにことした笑顔のまま。ロザリアは大きく溜め息を吐く。
「そう言えば、アンジェリーク。そのリボンは何のおまじない?」
「え……?」
 言われてみると、いつのまにか手首にはいつも髪に結んでいる赤いリボン。噴水に落としたのだが、自分自身が噴水に落ちたために、
うやむやになっていたもの。

(もしかしたら、クラヴィス様が……?)
 朝に来たのは、リボンを返しに来るついでもあったのかも知れない。アンジェリークが眠ってしまったために、こうして手首に結んでくれたのだとしたら……。
「えっと、内緒のおまじないなの♪」
「ふぅん。そうなの? まぁ、どうでもいいけど」
「うん」
 笑みが止まりそうもない自分をロザリアが怪訝そうに見ているけれど、嬉しさは隠し切れなくて。
「何よ…にやにやして……」
「なんかね、嬉しくて♪」
「……そうなの?」
「うん」
 こんな日もいいかも知れない…などと、考える現金なアンジェリークなのであった。

クラヴィス・リモージュです。もとネタは「トラップ一家物語」(なつかしの名作劇場)のエピソードより。小さなマリアがね、白鳥由里ちゃん
でしたの〜。昔から、あの声に弱かったのね。私……。後は幽遊白書の雪菜ちゃん♪

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