One Day
「お手伝いしましょうか?」
背後から突然そんな申し出をされたルヴァは驚いて何度か瞬きを繰り返した後、ゆっくりと振り返った。
「ああー、アンジェリーク。こんにちは」
「こんにちは、ルヴァ様。本の整理、お手伝いしますね」
にこにこと無邪気に笑ってそう言う少女に、ルヴァは少しだけ困ったような顔をして、首を傾げた。その
様子にアンジェリークは不安そうな面持ちで、
「ご迷惑ですか?」
と尋ねた。
「いいえー、迷惑だなんて…そんなことありませんよ! ええ、ありませんとも。それどころか、助かります
よー」
ルヴァがそういうと、アンジェリークはほっとした顔になった。
「あー、でも、せっかくの日の曜日にいいんですかー?」
「ええ。部屋でひとりでいても退屈だし。ルヴァ様の執務室って、とても居心地がいいから好きです」
「そう言って頂けて嬉しいですよー」
にこにこ。にこにこ。二人で呑気に微笑み会って、ふとルヴァは小首を傾げた。
何か…そう、とても重大なことを自分は忘れてしまっているのではないか、と。
「ルヴァ様、どの本から整理したらいいですか?」
ルヴァの周囲に積み上げられている本の列。それらをぐるりと見回したアンジェリークはどれから手を
つければいいのか検討がつかず、可愛らしく小首を傾げた。
「そうですねー、じゃあ、目の前の本の列からお願いしますねー」
「はい。……作者別にでいいですか?」
「ええ、お願いします」
頷いて、自らも整理作業に戻る。
黙々と本の整理は続けられ。全ての作業が終わったのは、すっかり日が沈んでからだった。
「助かりましたよー。ありがとうございます、アンジェリーク」
丁寧に礼を述べるルヴァに、アンジェリークは首を振る。
「あー、すっかり遅くなってしまいましたけど…あー、そのー、どうですか? お茶でも飲んでいきませんかー?
とてもおいしいお茶があるんですよー。」
にこにこと笑顔を浮かべて誘ってくれるルヴァにアンジェリークは申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい、ルヴァ様。私、今日はもう帰らないと…。ロザリアと約束してるんです」
「そうですかー。残念ですねぇ」
少し気落ちして言うルヴァにもう一度「ごめんなさい」と謝って、アンジェリークは急ぐ様子で扉に向かった。ゆっ
くりと扉を開いて、廊下に出たアンジェリークは思い出したように顔だけを覗かせる。
「ルヴァ様、お願いがあるんですけれど…」
「お願い、ですかー? ええ、はいはい、何でしょう?」
「わたしが今日ここに来たことは、絶対何が会っても内緒にしてくださいね。誰にも言わないでください。わたしと
ルヴァ様だけの秘密です」
いたずらっぽく笑っていったアンジェリークは、ルヴァが頷くよりも早く扉を閉めた。
唐突に、執務室の中が寒々しい気がして、ルヴァは長い溜め息を吐いた。
明るくくったくないあの少女がいる間は、とても暖かな空気がこの部屋を満たし、ルヴァを包んでいてくれたの
だが、彼女が去ってしまっただけで、その気配の名残りもない。
「淋しいですねー」
あの暖かな空気を時間感じる機会はもうないと言うのに……。
そこまで考えて、ルヴァは「おや?」と首を傾げて瞬いた。
「ああーー!」
重大なことを思い出し、大声を上げた。
「なんてことでしょうか……」
すーーっかり失念していた。彼女は、アンジェリークは新女王として即位していたのだ。ほんの数日前に!!
「……誰にも言えませんよー。今日のことは」
わざわざ釘をさされなくても。
日の曜日を新女王と過ごしただけでなく、本の整理を手伝わせたなどと知れたら、大騒ぎではすまないだろう。
「はぁー」
複雑なため息をこぼす。
「心臓に悪い秘密ですねー」
共有の秘密はしかし誰にも知られてはないないもの。ただ、それでも、この秘め事にささやかな幸せを感じては
いたりするのだけれど…。
「こんなこともありなんでしょうかねー」
先ほどまで少女がいた場所を見つめて、ルヴァはそっと微笑んだ。
まどかさんにバースデープレゼントに戴いたものです。ありがとう、私自身でさえめったに書かない、ルヴァさまと
リモージュちゃんの
素敵な話…。最高のプレゼントです。