月夜の天使たち
すべてが終わった夜。アンジェリークは夜空を見上げる。自分たちの育った宇宙の女王からの招待を受けて、故郷の宇宙に
戻った。そして、色々とあった出来事。まるで、ここ数日のことだとは思えないくらい。
『陛下が道を開いてくれたんだよ。さすがは陛下だよね』
謎の何かに操られていたアリオスによって、マルセルとともに危機に陥っていた時。もう駄目だ…そう思った瞬間、現れた守護
聖とレイチェル。
アリオスと共に飛び出してしまった自分たちを責めることもせず、最後まで見届けてくれた。
(陛下かぁ……)
光を弾く金色の髪とあどけない笑顔が印象的な少女。だが、それと裏腹に限りない慈愛と強さを持つ女性。かなわない…と
思う。守られるだけだった自分と違い、彼の攻撃を防ぎ、その攻撃してきた道を追って、自分たちを探し出せたのだから。
「あら、どうしたの?」
鈴が転がるような声。振り返ると夜目にも明るい金髪が目に入る。
「陛下……」
「駄目よ、女の子がこんな夜遅くに一人で出歩いちゃ」
「あの…陛下……?」
確かに自分一人で行動しているのは事実であるが、目の前の少女も共もつれずに歩いている。
「あ、私はいいの。ここは私の宇宙だし。何かあったら、私の責任だけど。あなたはお客様だし」
「はぁ……」
にこにこと言ってのける彼女にそう言う問題だろうか…と思う。光の守護聖あたりが聞けば、卒倒するはずである。だが、この
無敵の笑顔に逆らえるはずもない。
「あの…すみませんでした。色々とご迷惑をおかけして……。これで二度目ですね。取り返しのつかないことしたの……」
そこまで言いかけて、アンジェリークは俯いてしまう。そう、一度だけではない。過去にもこんなことをした。他の何よりも、彼を
選ぼうと……。そんなアンジェリークの頭をそっと、金の髪の女王は撫でてやる。
「陛下……?」
「そんなことないわ。私があの行動に出られたのは、あなたのおかげよ」
「私の……?」
戸惑うアンジェリークに金の髪の女王は優しく笑いかける。
「以前、あなたは何もかもを捨てて彼を選ぼうとしたって、私に言ってくれたわね?」
「……はい」
あの戦いの後、アンジェリークは金の髪の女王に自分を裁くように告げた。何もかもを捨て、彼を選ぼうとしたのだ…と。だが、
金の髪の女王はそれを責めることなく、自分の宇宙を愛しなさい…と、告げた。
「彼はあなたが何もかもを捨てて、選ぼうとしていた人でしょ? そして、あなたのために自ら滅ぶことを選んだ人……。だから、
信じたの。あの行動は彼の真意ではない…って。見えない何かの手に動かされているだけだって……」
「陛下……」
「そして、あなたたちの絆をね。あなたがそれを信じさせてくれたのよ」
ニッコリと女王は笑う。そして、アンジェリークの手を取る。
「完璧な女王なんていないわ。私だって、今でもロザリアやジュリアスに叱られちゃう。でも、頑張るしかないもの。私らしく…ね。
私にしかなれない女王があるように、あなたにしかなれない女王があるわ」
「私にしかなれない女王……?」
「そう。だから、心を強く持ちなさい。そして、自分を信じて。いつかまた、彼と出会った時に笑われちゃうわよ」
「そう…ですね……」
つられて、笑みを零す。そう、迷ってなんていられない。まだ自分にはやるべきことがたくさんあって。やがて、本当の意味で
生まれてくる彼を迎えるために。愛するべき宇宙のために。
「ありがとうございます、陛下……」
「あら、私は何もしていないわ」
「そんなことないです……」
今回の件で自己嫌悪に陥っていた自分を察してくれたのだろう。よく考えてみれば、警備の兵士たちが巡回しており、抜け出す
自分を見咎めるはず。それがなかったのは、彼女がアンジェリークのことを案じ、オスカーに頼んで、兵士たちに声をかけていた
からだ。
「私、頑張ります。私にしかなれない女王になるために」
「ええ、期待しているわ」
慈愛と優しさに溢れた天使の微笑。こんなふうに笑えるようになりたい…そうアンジェリークは思う。
「じゃあ、部屋に戻ります。お休みなさい、陛下」
「お休みなさい、アンジェリーク」
ペコリと一礼して差ってゆく栗色の髪の少女を金の髪の女王は優しい瞳で見送る。そして、姿が見えなくなるのを確認すると、
ゆっくりと後ろを振り返る。
「別に見守ってくれなくても、大丈夫なのに」
「気がついていたのか……」
その言葉と共に木の陰から闇をまとった青年がスッと現れる。
「あの子は気づいてなかったから、いいんじゃない?」
ころころと笑う少女に青年は苦笑する。
「万が一、何かあったら、困る……」
いくら、脅威が去ったとは言え、こんな夜中に共もつけずに歩くなんてことをしたら、誰かさんのお説教は免れないはずだ。
「クラヴィスはいつもそうね。黙って見ててくれる。今回の件も…あなたは気づいてくれていたのよね……」
操られていた彼と対峙するために、あえてみんなを下がらせ、一人になることを選んだ時、守護聖の中で彼だけは気づいて
いた。
「止めても聞かぬとわかっているからな……」
「何よ、それ」
少しすねたような口調が年相応の少女のそれで。
「それがおまえなのだろう? おまえにしかなれぬ女王としての行動…違うか?」
「クラヴィス……」
「私にできることはおまえを信じて見守ることだ……」
微かに彼が笑う。それは少女にしか気づくことができないほどの微かな笑み。
「ありがとう。クラヴィス」
だから、少女も笑顔を返す。万物に与える祝福の笑顔を今は彼の、彼だけのために。
「夜は冷える……。そろそろ、戻るがいい」
そっと手をさしのべられる。
「あら、あの子は一人で帰したのに?」
くすくす笑いながら、少女は青年の手を取る。
「彼の女王の手を取る者はもう決められている……」
「そうね。彼に叱られちゃうわ」
いつか出会うはずの二人。手を取り合うのはきっと、決められた相手とだけだから。
「それに、おまえは放っておくと、どこに飛んで行くかわからぬからな……」
「……ひどい」
「だから、ちゃんと見ている……」
少女の手を取る青年の手に力がわずかに込められる。それに気づいた少女もその手を握りかえす。
月明りの下、それぞれの思いと共に夜が更けてゆく……。
OAVの後日談的なお話です。だってさ、あのビデオの後編って、すごく、クラヴィス様美味しかったし…。前編はゼフェル×リモージュ、
後編はクラヴィス×リモージュですか、コーエーさん…。
|| <Pureness Angel> ||