まどろみ
| 春眠暁を覚えず、とはよく言ったものだとアリオスは思う。春の気候は穏やかでいつまでも眠っていたいという感覚は今も昔も変わらないらしい。そう言った面では人間には変化はないようだ。 春の気候は暁を覚えないだけではなく、午後のまどろみを誘う。昼食を食べた後、ポカポカの気候。こんな穏やかな気候の中で仕事をするなんて、もったいない。そういうわけで、部屋を抜け出して、昼寝に向かうアリオスであった。 アリオスが教師として勤務するスモルニィ女学院は敷地が広い。アリオスはいくつかの昼寝スポットを作っているくらいだ。季節ごと、時間ごとに作るという入念さだ。この時期は校舎裏がいい。そういうわけで、いつものように昼寝スポットでまどろんでいると、不意に影が差し込んでくる。人の気配には敏感な彼が不意をつかれるのは、ただ一人の少女にのみ、だ。彼女の気配には警戒する必要はないのだから。 「アリオス先生、お昼寝ですか? 生徒会の資料はまだ決裁をもらってないんですけど?」 書類を片手に、クスクスと笑う少女をアリオスは寝転んだままで見上げる。少女の名はアンジェリーク・コレット。スモルニィ女学院高等部二年生であり、アリオスの担任生徒であり、生徒会副会長だ。何を間違ったか、生徒会顧問になったアリオスのお目付け役でもある。 「いいだろ、春なんだし」 「よくありません。仕事はちゃんとしてください」 「俺の仕事なんざ、せいぜいハンコ押しくらいだろう? 史上最強の生徒会長と副会長が揃ってんだからな」 「生憎、史上最強の私たちでも顧問のハンコがなければ、動けないんですよ」 生徒会長のレイチェル・ハートとともにスモルニィ学院の生徒会を動かすアンジェリークたちを史上最強の生徒会コンビと呼んではばかられない。有効に権力を活用し、学園生活を生徒たちのよいようにしているのだ。文句などは言わせない。言うのだったら、自分たちで企画を立ててやってみろ、それが信条だ。実際、いいアイデアはどしどし実行するし、やる気のある者こそを優遇するシステムはおおむね良好だ。けれど、何か事を起こすには顧問の決裁印が必要なのは仕方がない。 「そういうわけです。サインでいいですから、とっとと目を通して、許可をくださいな。後は昼寝なりなんなりしちゃって結構ですから」 「ひどい言い様だな」 苦笑しつつ、アンジェリークが持ってる書類を受け取る。新入生を迎える会の企画書のようだ。ちゃんと出来上がっていて、後は決裁印のみというもの。 「ほらよ」 「ありがとうございます」 書類を受け取って立ち去ろうとする、アンジェリークの腕をアリオスは掴む。 「アリオス先生?」 「せっかくだから、お前も昼寝してけよ」 「……嫌です」 パシッと手を振り払うと、アンジェリークは不適に笑う。 「そういうことは学校じゃないでしょ?」 生徒の顔ではなく、オンナの顔でアンジェリークは笑う。 「また、今度、一緒にお昼ねしましょ?」 チュッと頬にキスを落とされる。…不意を疲れたアリオスは呆然とする。 「やってくれるな」 「そりゃあ、アリオスの恋人だし。負けないわよ」 書類を片手に、くるりとアンジェリークは翻る。 「じゃあ、戻るわ。レイチェルにはうまく言っといてあげるから」 「へいへい」 これ以上は呼び止めても無駄なので、手を振ってはやると、アンジェリークも不敵な笑顔のままで手を振って、その場を去った。 「やってくれるぜ……」 頬に落とされた唇の感触が残っている気がする。それでも、どこか楽しそうにアリオスは笑って。次のリベンジをしようかと思いもしつつ、当初の目的どおりに昼寝を楽しむことにした。 |
本当はトロワ後の話にするつもりでしたけど。常春だよね、あそこ……。そういうわけで、学園ものなのです。シリーズ化したいなぁ…