共同戦線



「はい。書類」
 いつものように決済用の書類を差し出すレイチェルにアンジェリークは怪訝そうな顔を見せる。
「どうしたの?」
「え、ナンのハナシ?」
「指先に包帯を巻いていて、何の話もないと思うけど?」
「えっと……」
 頼りになる親友兼優秀な女王補佐官であるレイチェルが動揺するのは珍しい。
「昨日、カップを割ってさ。で、片付けようとしたら、切っちゃって……」
「大丈夫? 気をつけてね」
「うん。猿も木から滑ることもたまにはあるのよ」
「もう。レイチェルったら……」
 あっけらかんと笑うレイチェルにアンジェリークもつられて笑みを零した。
「じゃ、ワタシはこれで」
「うん。ありがとう」
 部屋を出て行くレイチェルに手を振ると、アンジェリークは提出された書類に目を通し始めた。
「あの調子じゃ忘れてるよねぇ……」
 女王の執務室を出たレイチェルは深々とため息をつく。他人のことには一生懸命なくせに、自分のことには無頓着な
親友を思ってのこと。今日が自分の誕生日であることも忘れているのだから。聖地の時間の流れは緩やかであるし、
この宇宙は女王と女王補佐官と守護聖が一人という、人手不足の状態。そういうことにかまってもいられないのは事実
かもしれないが、アンジェリークはレイチェルの誕生日にはちゃんとお祝いをしてくれたのだ。
「慣れないことはするもんじゃないけど、びっくりはしてくれるからいいか♪」
 コンピューターを駆使し、情報をまとめることには長けているこの手は、家庭的にはかなり不具合を持っているけれど。
それでもできるだけのことはしてあげたい。華美なことをあまり好まないアンジェリークには手作りの暖かなお祝いの宴を
設けてあげたいから。指先のやけどの代償には余りある絶品のスポンジを焼き上げた。デコレーションは何度も練習した
から、綺麗にできるはず。
「よ、補佐官殿」
 大きな花束を持って、絵になるほどにさまになる男というのは確かに存在する。故郷の宇宙では炎の守護聖。そして、
この宇宙では……。
「やっぱり、あの子忘れてるみたい……」
「だろうな……」
 予想通りだとアリオスはクッと喉を鳴らして笑う。
「こっちの首尾も上々だぜ? 使わない部屋の飾りつけも終わったしな。これはこの間視察で言った惑星に咲いてた花だ。
香りもいいし、色もいいだろ?」
「……ありがと。ワタシだけじゃ手が回らなかったから、感謝してる」
「それはこちらのせりふかもな。あいつに気づかれないように手はずを整えるのは俺にもできるが、あいつの仕事の調整は
そっちに任せるしかないからな」
 なんだかんだと言い合いはするけれど、やっぱり一番大切なのはアンジェリークの笑顔なのだ。
「じゃ、あと半日、お仕事をがんばりますか」
「ああ、そうだな」
 何も気づいていはいないであろう天使に思いをはせて、もう一度二人で笑いあった。


この世でたった一人の大切な天使に愛を込めて……

はい、今年もやりました。自分への誕生日プレゼント創作です。しがらみにとらわれずに書きたいものだけを書いたのです。
たまにはいいでしょ?

|| <Going my Angel> ||