この愛のために
夜明け前の静かな時間。ふと、目が覚めたアリオスは隣で穏やかな寝息を立てている少女を見て 、目を
細める。二度と触れることはないと思っていた。罪に塗れた魂の自分を、自らが汚れることを 厭わずに手を
さしのべた天使。背負うすべてを捨ててでも、裏切っても…自分を選ぶ…と。一度は その手が取れなくて、
自らを闇に封印した。だが、それでも天使はアリオスに光を投げかけた。愛 すること…愛されることに飢えて
いた、無器用で、孤独な魂を愛しいのだと……。
(まったく…大した奴だよ……)
柔らかな栗色の髪にそっと口づける。
「ん……」
わずかに身じろいで、少女は目を開ける。
「アリオス……」
「アンジェリーク…悪ぃ、起こしちまったか?」
「今、何時……?」
とろとろした瞳で訪ねてくる表情が愛らしくて、つい、笑みを零してしまう。時々、自覚のな い愛らしさをこの
少女は見せてくるのだ。
「まだ…夜明け前だ。寝てるといい……」
「なんで…アリオスは起きてるの……?」
「目が覚めただけだ。俺も寝るから……」
「ん〜」
むくっと起き上がると、アンジェリークは少しだけカーテンを開けて、外を見る。空にはまだ 星たちが輝き続け
ている。だが…うっすらと東の空が白ばみはじめている。
「もうすぐ…朝なんだ……」
「早起きしすぎると、後が辛いぞ」
一応、彼も疲れさせている張本人だが、自覚がないらしい。
「でも…私、夜明けって見たことないの……。いつも、目覚ましの音で起きてるから……」
とろとろとした瞳のまま言うのでは、あまり説得力がない。アリオスは軽く溜め息を吐くと、 夜着姿のアンジェ
リークに上着をかけてやる。
「アリオス?」
「眠れったって、言うこと聞かないだろうが。この天使様は。ここからじゃ、朝日を見るにはもの たりねぇよ。いい
場所があるから、連れてってやるよ」
その言葉にアンジェリークの顔が輝く。さっきまでは本当に眠そうな顔をしていたのに、現金な ものである。
「じゃあ、じっとしてろよ」
フワリ…とアンジェリークを抱き上げると、アリオスは片手で、窓に手をかける。
「ちょっと、アリオス! なんで窓から……」
「馬鹿、警備の兵に見つかると面倒だろうが!」
「で、でも〜」
理屈では理解できるが、お姫様抱っこはアンジェリークとて恥ずかしいのである。
「おとなしくしてろ、落ちるぞ!」
「いや!」
しっかりとアリオスに首にしがみつく辺り、まだまだアリオスにかなわないアンジェリークなの であった。
連れてこられたのは、主星から離れた惑星にある小高い丘の上。転移の魔法で移動してきたのだ。
「ここって……?」
「俺が生まれた惑星だ。忘れちまったのか、女王陛下?」
「わ、わかってるわよ……」
そう…アンジェリークが治める宇宙で初めて生まれた、人間の生命。金と緑の瞳を宿した少年。 それが今の
アリオス。忘れていないはずがない。
「どうして…ここまで連れてきたの? 丘なら、主星にもあるわ……」
「ここは特別なんだよ」
「ふうん……」
納得できないながらも、腰を下ろすアンジェリーク。アリオスもその傍らに座る。白くなりゆく 東の空。月はもう
西の彼方。星たちも少しずつ眠りに落ちる。そうして、太陽が地平線から少し ずつ顔を見せてくる。
「うわぁ……」
明るい光を放ちながら、太陽が姿を現す。空と大地の狭間で生まれてくるように。世界が目覚め てゆく瞬間。
自然が造り出した、壮大なドラマ。けっして、部屋から見るだけではこの瞬間に感動 はできないだろう。
「すごいねえ……」
「ああ……」
うっとりと朝日を見るアンジェリーク。
「ここは特別な場所だからな……」
「?」
首を傾げるアンジェリークにアリオスは朝日を指出す。
「生まれた時…俺は一人だったんだぜ。世話をするための人間はいたが、どうしようもなく寂しか ったんだろうな。
夜が来るのが恐かった」
「どうして?」
「一人でいるのが…無意識に恐かったんだろうな。夜明けが来ないのが恐くて……。震えていた こともあった」
普段のアリオスとは違う一面を今、垣間見た気がする。
「だけど…ある日、夜明けに目が覚めたんだ。そして、朝日が上る瞬間を見て…俺はわかった」
「……?」
「この光はおまえが俺に届けてくれてるって……。俺を照らしてくれるのは…おまえしかいない って……」
「アリオス……」
フワリと抱きしめられる。
「情けない男だな……。こんな小娘一人に翻弄されて……」
「ひどーい」
「だが、それも悪くないってんだから、重症だな」
チュッと音を立てて、頬にキス。互いにクスリと笑いあう。
「愛してる……」
「うん、私も……。ずっと、あなたを照らしてあげる」
「当然だ……。俺はおまえのためにいるんだからな……」
そう…すべてはこの腕の中の天使のために。この愛のためだけに。
世界が目覚めてゆく中で…二人は口付けをかわしあう。幾千もの願いと誓いを込めて……。
すぎまろ様からのリクエスト「朝日を見に行く二人」を目指したのですが…。ちなみに、イメージはチャゲ&飛鳥の曲。
朝日って言うのは生まれてゆく命を思わせるので、前向きな話にしてみました。
<贈り物の部屋へ>