平和なある日の物語


 いつもの通りに宇宙人がやってきて、いつもの通りにダグオンになって倒す。そんなある日のこと。
「あれ、竜、おまえ、裏山に住んでんだろ? 何でおりてきてるんだ?」
 宇宙人を倒した後、ミーティングと言うことでいつものごとく部長の真理亜の断わりなしに超常現象研究会で集まったあと。
みんなと同じように校門まで来ている竜に森の疑問の言葉。

「炎のうちに泊まりに行くからな……。」
「オレんち、親が可愛い一人息子置いて、旅行行ってんだ。」
 そう言って肩をすくめる炎になるほどと森が頷く。
「ああ、なるほど。野暮なことは言わないでおきましょう、森。」
 にこにこと言う翼。その言葉と笑顔の奥の真意は…言うまい。
「いいですねぇ…炎先輩、僕も今度泊めてくださいね。」
 無邪気に言う雷の言葉に森と翼は何も知らないことの恐ろしさを思うのだ。だが、炎は明るく答える。
「いいぜ。今日でもいいんだけど、竜がいるからなぁ……。」
「そうですね……。いきなり、僕が増えたら迷惑ですよね。」
 そりゃ、そうだろうと森と翼は思う。
「よし、今度ワシの寮に泊まりに来るか、雷?」
「いいんですか? 僕、他校生ですよ。」
「うちの寮長は細かいことは気にせん。」
 そう言って、ガハハと笑う激にさすが風雲高校と思ってしまう雷以外の一同である。
「あ…雷、本当、泊まりに来いよ。オレんち、風呂は二人までが精一杯でさ、三人一緒って訳には行かないから…今日は
無理だけど……。」

 そう言った炎に雷はにこやかに笑顔を向ける。
「あ…そうなんですか。じゃ、今度、泊まりに行きますね。」
「ああ。楽しみにしてる。」
 穏やかに続く炎と雷の会話。だが、ふと、海が押し殺すように言った。
「ちょっと待て…風呂は二人までといったな……。炎、おまえ、竜と一緒に風呂に入っているのか?」
「うん。」
 あっさりとした返事の炎に森と翼はあーあと顔を見合わせる。竜はしれっとしているし、激と雷はよくわかっていない。
「き…貴様ら…不健全な……。」
 思わず竹刀を振りかざそうとする海を森と激が必死で押さえる。
「なんで…男同士で風呂に入るのが不健全なんですか?」
「雷、宇宙人には分からない世界があるんです。細かいことは気にしないほうがいいですよ。」
 などと、無責任な会話が翼と雷の間でなされている。
「なんで…オレがこんな理不尽に叱られなきゃならないんだ!」
「貴様たちの行動がだろうが?」
 竹刀を翻そうとしない海に炎はどなるが海も負けていない。
「オレは竜が一緒に風呂に入ってくれないと困るんだ!」
「風呂くらい一人で入れるだろうが!」
 けんけんごうごうと怒鳴り合う二人を竜は森と激に離させる。
「何を想像したのかは知らんが…オレが炎と一緒に風呂に入らないと、炎が危険なんだ……。」
「どういうことですか?」
 翼の言葉に炎と竜は顔を見合わせるが、あきらめたように炎は頷くと、語り始めた。
「初めて炎の家に泊まりに言ったときだ。炎が風呂に入ると言って、浴室に向かって一時間……。上がってこなかった
んだ。」

「のぼせてたのか?」
「炎は風呂で眠ってたんだ……。それも顔が半分湯に使っている状態で……。」
「オレ、よくやるんだよ。風呂で溺れかけることはしょっちゅうでさ……。親がいるときは親が見に来てくれるんだけど…
いないときはなぁ……。で、竜に来てもらって……。」

 そう言って溜め息を吐く炎の様子を見て、嘘だとは思えない。 
「炎先輩…死なないでくださいね。サルガッソの宇宙人達はまだまだたくさんいるんですから……。竜先輩、炎先輩の
こと、お願いしますね。」

「確かになぁ…これで炎が溺死でもしたら、『惜しい人を亡くしてしまった』じゃなくて、『おかしい人を亡くしてしまった』に
なるからなぁ……。」

 そう言う問題だろうかと心の中で思う翼であるが、
「とにかく…これで誤解は解けたんですから、帰りましょうよ。」
と、さりげなくフォローを入れる。
「う…うむ……。」
 いまいち納得できない海に竜は追い討ちをかける。
「何を想像したのかはしらんが、これで誤解が解けたのなら、帰るぞ、炎。」
 その言葉に海はブチッと切れる。
「何だと、竜! 大体、炎、貴様の精神が弛んでるから、こういう誤解を生むんだ!」
「なんで、オレに来るんだよ!」
 自分に矛先が向けられて、炎が黙っているはずもなく。再び、喧々囂々と続く。
「ねぇ…帰りましょうよ、先輩方……。」
 おろおろする雷に翼と森が溜め息を吐く。
「いい加減にせんか、貴様ら。とにかく、竜と一緒に風呂に入らなくて、炎が風呂で寝なければいいんじゃろう。」
「ま、そうなんですけどね。」
「だったら、ワシに考えがある。」
 激の言葉に森と翼と雷は顔を見合わせる。
 「こうすればいいんじゃ……。」
  激は自分の考えを話し始める。そして……。

「ああ、いい湯だなぁ……。」
「そうだな……。」
 気持ち良さそうに湯船につかる炎と竜。
「海、ここにまで竹刀持ってくんなよ……。」
「これは私の精神だ。」
 などといってる彼らとは違う湯船に漬かりながら、その様子を見ているほかの四人。
「なんで、俺たちまでつきあわされるんだ?」
「男同士の裸のつきあいじゃろうが。みなで風呂に入れば問題ないと思うたんじゃがのう……。」
「お風呂上がりの牛乳は海がおごってくれるんですし、かまわないじゃないですか。」
「わぁ、僕、牛乳大好きなんです。」
 激の提案…つまり、みんなで風呂に入れば問題がない…ということで、銭湯に行くことになったのだ。付き合わ
される身としては、いい迷惑だが、あのまま、もめていても、始まらないし。ちなみに、竜の銭湯代は炎が出している。

「しっかし、何が楽しくて男同士で風呂屋に……。可愛い彼女と一緒ならねぇ……。」
「森先輩。地球では銭湯に来た恋人同士で風呂屋に行ったときは、女性が先に上がって、赤いタオルをマフラーに
するんでしょ?」

 雷の言葉に森は脱力する。
「どっからその発想が……。」
 森のその言葉に雷はきょとんとする。
「宇宙警察機構の資料にそう乗っていましたので……。」
「神田川の世界じゃろうが……。しかしのぅ…ワシも真理亜さん とそうなりた いもんじゃ……。」
 しみじみという激に翼はクスクス笑う。四人は四人で結構銭湯を満喫しているのではあった。
「さて、そろそろあがろうか……。」
 身体を洗い、十分温もって、あがろうとする海。フト、炎の姿を見ると……
「炎……?」
「ん……。」
 トロンとした瞳で湯船にもたれかけている。まるで今にも眠ってしまいそうな……。」
「おい…炎……!」
 そう言って、起こそうとする海だが、ぼーっと自分を見上げてくる炎に瞳を奪われる。
 トロンとした潤んだ瞳、上気した肌。起こそうと伸ばした手が硬直してしまう。
(何を私は……!)
 そう自分自身に怒鳴る。眠そうなのを起こすのが可愛そうだからと自分自身に言い聞かせて。
「どいてもらおうか。」
と、いつのまにか現れた竜の姿。手にはタオルを持って。
「竜……?」
 戸惑う海を横目に、竜は炎の顔にタオルを当てる。
「冷てぇ!」
 そう叫んで、パチッと、目を開ける炎。そして、目の前にいる竜と海を見上げる。
「あれ…オレ……?」
「半分寝ていただろう? 冷たかったか?」
 そう言って、濡れタオルで炎の頬に触れる竜に炎は首を振る。
「ううん。またやったんだな。やっぱ、竜がいて良かった。」
 そう言って、竜に笑顔を見せる炎。
「誰かさんは起こそうともしてくれなかったからな。さ、あがるぞ、炎。」
 その竜の物言いにむっとする海だが、言い返せないのも事実。そんな海に竜は立ち去りぎわ、余裕の
笑みを見せて去ってゆく。その仕種ににますますやり場のない怒りに震える海であった。


「ああ、風呂上がりのコーラは最高だぜ。」
「オレはお茶のほうがいいがな……。」
 風呂上がりのいっぱいを満喫する竜と炎。その横で海は牛乳瓶とにらみ合いを続けている。
「何があったんでしょうね……。」
「結局、オレら他人の振りしてたからな……。」
 などとこちらも風呂上がりのいっぱいを満喫する森と翼。結局は、なんだかんだと一緒にいると恥ずかしい
ので、他人の振りをしていたのである。

「美味しい…お風呂上がりの牛乳がこんなに美味しいなんて……。皆さんとご一緒しているせいもあるかも
しれませんね。」

「そうか? じゃあ、また銭湯にくるとするかのう……。」
 などと、目的を忘れている人たちもいる。
「でも、結局竜が起こしてくれたし、竜が一番頼りになるぜ。」
 そう言って、炎が竜に笑顔を見せると、余裕の表情で竜は海を見る。牛乳瓶を握っていた手に力がこもる。
可愛そうな牛乳瓶である。
 何はともあれ、こんな勇者様たちに守られて、今日も地球は平和なのでありました。