kiss


 昼休みのざわめきが聞こえる校内で唯一、静かな場所でアリオスは紫煙をゆっくりと吐く。
(ったく、一昔前の不良じゃあるまいし)
 フェンス越しに空を見上げながら、昼食後の一服である。この屋上は生徒は立ち入り禁止の場所である。そう
いうわけで、アリオスは遠慮なく煙草を吸っている。もちろん、彼は生徒ではなく、一応、この学園の教師である。
銀色の髪、端整な顔立ちで生徒に人気がある。赴任した当初の女生徒のの騒ぎのあまりにの鬱陶しさに、伊達
眼鏡をかけはじめたのだが、それはそれで眼鏡も素敵…と意味がなかった。

 エスカレーター式の女子校で温室育ちの女生徒が多いこの学園では生徒への悪影響だから…と教官室内でも
禁煙を義務付けられている。ヘビースモーカーの彼がそれを我慢するはずもなく。うるさい教頭などに見つからない
ように、ここで吸っているわけである。確かに一昔前の不良と変わらないかもしれない(笑)

「あー、やっぱりここにいた」
 バタン! 屋上に続くドアを勢いよく開ける音と共に聞こえたのは勝気そうな少女の声。アリオスは気だるげに振り
返る。

「ここは一般生徒は立ち入り禁止だぜ」
「その一般生徒が探している教師がここにいるから、仕方ありません」
 アリオスの揶揄めいた言葉をサラリと少女はかわす。肩までで切りそろえた栗色の髪。意思の強さがそのまま輝
きとなったようなブルーグリーンの瞳。

「言ってくれるよな、アンジェリーク・コレット生徒会長殿は」
「あら、誉め言葉をありがとうございます。顧問の先生」
 ニコニコと貼りついた笑顔と共に差し出されるのは分厚い書類。
「これ、目を通してくださいね。ちゃんとまとめましたから」
 彼女はこの学園始まって以来のバイタリティーのある生徒会長様なのである。彼女の補佐をしているのは1学年
下の自他とも認める天才少女レイチェル。この2人の手腕により、今年度の学校行事は今までにないものになろう
としている。

「放課後は文化祭の実行委員会ですからね。サボらないで下さいよ」
 自他とも認める勝気な性格は強いリーダーシップと責任感を生み、副会長のレイチェルはそんな彼女をよく補佐
している。もっとも、そのやる気のせいでアリオスの仕事が増えているのだが。

(まったく、なんで、この俺が……)
 生徒会の顧問を言い渡された時は、どうしようもない嫌がらせと受け取っていた。だが、今はそれも悪くないと思え
てくる。それはこの目の前の少女のため。

「ほら、先生」
 差し出されたままの書類を煩わしく思いながら、ふとアリオスは何事かを考えつく。
「ああ、わかった」
 そう言って、手を伸ばすと、少女の腕を掴んで、思いっきり自分の方に引き寄せる。
「キャ…」
 バサバサ…と書類が落ちる。クリップで留めていたのが、不幸中の幸いで書類はバラバラにならずにはすんだのだが。
「ちょ、先生…!」
 戸惑うアンジェリークの耳元にアリオスはそっと吐息ごと囁きかける。
「先生じゃない。アリオスだ。2人の時はそう呼べって言ってるだろう?」
「や…」
「『や』じゃない」
 身じろごうとするアンジェリークを難なく抑えて、アリオスはアンジェリークの唇を自分のそれでふさいでしまう。手
慣れたように唇を割って、入りこんでくる舌の動きにアンジェリークは翻弄される。深くむさぼる口づけにアンジェ
リークの身体から力が抜けてゆく。足が震えて、何も考えられなくなる。

「ん……」
 唇が離れた途端、グッタリと力が抜けた身体をアリオスに預けてしまう。
「ほら、言ってみろよ……」
 スッ…と太腿に触れる長い指先にビクリとアンジェリークの身体が震える。
「アンジェ…」
 耳元で囁くついでとばかりに、耳朶を甘噛みされてはもぅ降参するしかなくて。
「アリオスの馬鹿……」
 悔しそうに顔を背けながらのその言葉にアリオスは笑みを見せる。
「馬鹿は余計だがな」
「知らない」
 ぷいと機嫌を損ねてアリオスを見上げるアンジェリークの瞳は教師に対する生徒のそれではなく、年上の恋人に
翻弄されて拗ねるそれである。プライベートでは恋人同士なのである。タブーだとは考えていない。たまたま、好き
になった相手がそういう立場だっただけだから。だが、学校では手を出さないと、アンジェリークがアリオスに約束さ
せたことを時々アリオスは忘れてしまう。…というより、約束を思い出すより先に、手が出るのかもしれない。

「ま、この書類は目を通してやるよ。でないと、仕事で飛び回ってばかりの生徒会長殿はなかなか手を出させてくれ
ないからな」

 未だに抱きしめたままの少女に軽く口づける。
「だから、学校でこういうことは〜」
「遅い。もう、手を出しちまってるからな」
 その言葉と共に今度は深く口づける。少女の唇を十分に堪能してから、ようやくアリオスは少女を解放する。
「ま、生徒会長殿には授業があるからな。ここまでにしてやるぜ」
「もう、知らない」
 真っ赤になりながらも、未だに力の入らない身体をアリオスに預ける可愛い恋人の姿にアリオスは満足そうに
微笑んだ。

        ……FIN.

 4444番を踏まれたYANA様からのリクエスト。学園ものでございます。元々、学園ものはネタがありましたので、
これ幸いとばかりに楽しく書きました。これ、シリーズ化にしたいなぁ…。その前に、宿題を片付けようね、私。
<贈り物の部屋>