世にも不毛な物語
アルカディアの一件から、新宇宙の聖地の時間で半年余りが過ぎた。新宇宙は今の所、順調に発展している。
アルカディアの住人たちが移住して来たことにより、活気づいてきた。
人が増えれば、その分、宇宙に必要とされる力が増える。女王であるアンジェリーク一人にかかる負担が増大して
きたことから、守護聖を迎えた。
だが、そこから新しい問題が持ち上がった。宇宙の危機に比べれば、比べようもないほど、些細なことであったが
(笑)
「例の惑星の報告書がまとまったぜ」
そう言って、バサリと、無造作すぎる仕種で、アリオスは書類を机の上に置く。
「ご苦労様。で、どうだったの?」
「直接、あいつに報告すれば、いいだろうが」
何処か苛立たしげな口調のアリオスにレイチェルは慇懃無礼な笑顔で答える。
「その程度の報告なら、私が聞いておけばすむし。陛下は毎日、多忙な身だから。報告書は渡しておくよ」
「直接話した方が判りやすいこともあるんだぜ?」
「アナタの場合、余計な時間を取らせて、陛下に負担をかけることもあるし。優秀な女王補佐官としては、それを避け
たいだけなんだけどね」
会話は何処までも平行線。交わる場所など何処にもない。何とも言えない空気が流れるだけ。それはアリオスが
守護聖として、迎え入れられた時から、繰り広げられた光景だった。
アルカディアでの一件後、しばらくして、アンジェリークの前に現れたのは金と緑の瞳を一つずつ持つ銀髪の青年で
あった。アルカディアでの最後の日、アンジェリークが会いに行ったのは彼であることは容易に想像がついた。アンジェ
リークが守護聖や教官、協力者以外の人間に会っているのは知っていた。ある日を境に、アンジェリークが輝くような
笑顔を見せ始めたからだ。故郷の宇宙の一件後、アンジェリークから笑顔が消えた理由は聞いていたから、彼女が
幸福であれば、それでいいと思ってはいた。それが一度、アンジェリークを泣かせた男だとしても。
ただ、アンジェリークとレイチェルを驚かせたことがあった。転生前の魔道の力が変化していたのか、アリオスには
サクリアがあったのだ。
『これで堂々とおまえの傍にいられるわけだ』
不敵に笑って、レイチェルの前で堂々とアンジェリークを抱き締めた。
まぁ、それは置いておいて。守護聖としてのアリオスは優秀なくらいに働いてくれている。心配していた故郷の宇宙の
人々もアリオスの働きぶりと、アンジェリークに対する思い(主に後者かもしれない)を見て、安心し、祝福してくれた。
…と、ここまではいい。守護聖としてのアリオスはレイチェルも認めざるをえない優秀な存在。
問題は一個人としてのアリオスだった。
レイチェルにとってのアンジェリークは女王と女王補佐官という公的な立場だけではなく、互いを認め合える大切な友人
同士だ。親友の恋は祝福したい。だが、アンジェリークを独占している状況を許せるかといえば、そうはいかないのが人の
常である。親友を奪った男として認識している今日のレイチェルがいる。
一方、アリオスにしてみても、ようやく自分自身のかこのしがらみを捨て去り、愛しい少女をこの手にできたかと思えば、
守護聖より厄介な小姑の存在。エルダのことは仕方ないとは思う。人の姿を取ることも出来る聖獣は女王の半身である
から害はない。だが、親友だからと言って、何故アンジェリークとの仲を邪魔されなければならないのか。
今とて、地上の時間で一月程の視察を命じられて戻ってきたところだ。聖地の時間では数時間でも、体感時間の一月
もの間、離れていたのだから。
「あんまり大人げない真似はやめとけよ?」
「あら、ごめんなさい。アナタみたいに年齢を重ねてないコドモだから」
にっこりと皮肉を忘れずに。頭のいいコドモは何かと厄介である事をいやがうえにも意識させられる
。緊迫した空気が流れる中……。
「レイチェル。そろそろ、お茶に……。あ、アリオス、帰ってきてたの?」
一気に緊迫した空気が解ける。今、部屋に入ってきたそれは栗色の髪の天使の存在による。傍らには半身ともいえる
聖獣の人型の姿をした、エルダの存在。
「ごきげんよう」
お茶の時間には時折、エルダもご相伴に預かる。今日もどの通りだった。
「あ、アリオスが帰ってきたから、報告を聞いてたんだよ」
「ああ、そうだな」
見事に会話の帳尻を合わせる。アンジェリークが来たら、一時休戦、それは二人には共通した認識。自分たちの仲が
悪いとしれば、悲しむ。アンジェリークを悲しませるのは本意ではない。
「お帰りなさい、アリオス。ご苦労様でした」
笑顔と共に与えられる、アンジェリークの労いの言葉。これだけで疲れがとれるようだ。
「お茶にしましょ。昨日、クッキーを焼いたの。疲れたときには甘いものがいいのよ」
「甘いもんならここにあるだろ?」
「え?」
アンジェリークがその言葉を理解する前にアリオスはレイチェルの前で堂々と口づける。
「アリオス〜」
当然、真っ赤な顔でアリオスに抗議してくる。
「何だよ、嫌だったのか?」
少し悲しげな口調で言えば、当然、アンジェリークは首を振るしかない。
「い、嫌じゃないけど、レイチェルやエルダの前だし……」
真っ赤になりながらも、否定はしないアンジェリークの仕種はいつ見ても可愛い。
「わかった。じゃあ、二人っきりの時にな」
そっと耳元でアンジェリークに囁きかけ、レイチェルに視線を向ければ、当然のように面白くなさそうな顔、だ。見慣れて
しまったエルダは我関せず、と言った顔。まぁ、賢明ではある。
そうして、今日も不毛な戦いが繰り広げられるのであった。
54000番を踏まれた黒井真夢様からのリクエスト。トロワ後のアンジェ争奪戦です。しかし……。気づけよ。アンジェも。
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