HUNGRY Angel
その日もアンジェリークは 朝食を食べそこなった。…とは言え、寝坊ではなく、食欲がなくて、食べ られ
なかったのだ。かろうじで、少しのスープを飲んできただけであった。
「おなかすいた……。」
正午前になると、気分も良くなってきたのだが、朝食を食べていない反動がここに来てしまった。
「ふにゃあ……。」
空腹の天使はつい壁に持たれてしまう。だが、今日は運が悪かった。
「何をしている、アンジェリーク。」
厳しい口調にアンジェリークはビクッと肩をすくませる。元々、この声の主を苦手としているのだ。
「ごめんなさい、ジュリアス様。」
条件反射に直立不動にすらなってしまう。
「そなたは女王候補なのだぞ。そのようにだらしない振る舞いでどうする。」
「ごめんなさい。」
ひたすら頭を下げて謝るアンジェリーク。無理もない。
「そもそもそなたは……。」
キュルル……。ジュリアスの言葉が中断する。アンジェリークは恥ずかしそうに俯いてしまう。
「そなた、空腹なのか……?」
「朝御飯…気分が悪くて、食べられなくて、その……。」
「そうか……。」
互いに気まずい空気が流れている。
「仕方がない、ついてまいれ。」
「はい?」
ジュリアスの言葉の意味が吐かれないアンジェリーク。だが、ジュリアスはすたすたと歩いてゆく。
アンジェリークは必至でついて行くしかなかった。
「ここって……?」
連れてこられたのは女王補佐官であるディアの部屋。戸惑うアンジェをよそにジュリアスは部屋に入る。
「あら…ジュリアス。それに…アンジェリーク?」
意外な取り合わせにもにこやかに笑顔を向けるディア。
「すまない、ディア。昼食の約束だが、この者も入れても構わぬか?」
「ええっっ?!」
びっくりするのはアンジェリークである。当然であろう。守護聖の長であるジュリアスと女王補佐官である
ディアの昼食の約束に自分が割り込む形になるのだから。
「あら、かまいませんよ。」
「でも……。」
ニッコリと頷くディアにますます固まるアンジェリーク。
「それじゃ、アンジェリーク。お茶の用意を手伝ってくれると、嬉しいのだけど。」
「は、はい。」
もう何が何やらの気分である。訳がわからぬままにディアの手伝いをして、お茶をいれる。
「小さなお客様が一緒だなんて、嬉しいわね。」
混乱状態のアンジェリークとは裏腹に、どこか楽しげなディア。
「その言葉だと、私では不満だと言うことか?」
「そんなことは言ってはいませんわ。何か思うところでも?」
「いや……。」
ニッコリとジュリアスを丸め込むディアを見て、アンジェリークはディアに底知れぬ何かを感じてしまうのであった。
「さ、それより、アンジェリーク。そちらに掛けて。」
「は、はい。」
促されるままに席に着く。ディアが用意したのは、ローストビーフやスモークチキンのサンドイッチ、トマトを器にした
ミニサラダなどなど、いわゆるお弁当。
「おいしそう……。」
キュルル……。呟きとともにである。つくづく、身体は正直である。
「あ……。」
そのアンジェリークの様子にディアはクスクス笑う。
「それで、ジュリアスが連れてきたのですね。」
「朝食を気分が優れぬために、食べられなかったらしい。健康管理も女王候補たる者の大事な責務なのだが。慣れぬ
環境のせいもある。」
「そうですか。それにあなたと私では、執務の話の方が進んで、あまり食も進みませんしね。その分を片づけてもらうつ
もりですね。」
クスクス笑うディア。ジュリアスの行動に対してである。
「そう言うことだ。時間を節約するために簡単なものにしているはずだが、結局多くを残してしまうことになるからな。」
ジュリアスのほうはディアの笑いの真意に気づいていない様子。
「そうね。では、アンジェリーク。そういうわけなので、協力してくださいね。」
「はぁ……。」
もはや、有無を言わせぬ感じの展開になってきた。ジュリアスとディアの昼食に立ち会わざるを得ない。
「さ、緊張しないで。それとも…私の作ったものは口に合わない?」
「そ…そんな……。いただきます!」
手にとったのはサンドイッチ。ぱくっと、口にする。
「おいしい……。」
「あら、そう?」
「はい、おいしいです。」
本当においしそうに食べるアンジェリーク。
「嬉しいわ、ジュリアスじゃこうはいかないもの。」
「?」
「深く追求しないでね。」
「はぁ……。」
首を傾げつつも、聞かないほうが言いのかも知れないとアンジェリークはおいしそうに食事を続ける。ジュリアスは
微かな苦笑を漏らすのであった。
「ご馳走様でした。美味しかったです。」
ある程度食べて、満足そうにアンジェリークは笑う。満面の笑顔である。
「そう? そう言われると、作った甲斐があったわ。それじゃ、私とジュリアスはまだ話があるから。」
「あ、すみません。お話の邪魔になっちゃって。」
「かまわないわ。また、いらっしゃい。」
「ありがとうございました、ジュリアス様、ディア様。」
一礼して、退室するアンジェリーク。ディアは楽しそうにクスクス笑う
「何がおかしい?」
「いえ……。何でもありません……。」
ジュリアス自身は気づいてはいないけれど…食事をしているアンジェリークの姿を見て、少し表情が綻んでいた。
何よりも、空腹の少女のために、普段は執務の話をするための昼食のに設けていたこの時間を割いているのだ。
それが何を意味しているのか……。多分、彼は気づいていない。
「今度見かけたら、庭園のカフェに連れていくのはどうですか?」
「ディア、私はあの者を甘やかせるつもりは……。」
先程の態度も十分甘やかしているのではないだろうか…との疑問がないでもないが、ディアはそれを言葉にする
こともなくただ微笑んでいた。
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