子猫にはいえること


 昼休み。天気もいいので裏庭に出たら、大きな先客と小さな先客がいた。
「葉月くんにちびちゃん?」
 ぐっすり熟睡中の葉月に学校に住み着いている猫一家の子猫。似ているからと言う理由で少女と同じ名前を付けられている。何となく
恥ずかしくて少女は子猫を『ちびちゃん』と呼んでいた。
「他の皆は?」
「みゃう」
 見ると離れた場所でお昼寝中。はたして、釣られて寝たのはどちらなのか。マイペースらしいこの子猫だけは起きていたらしい。
「おいで、ちびちゃん」
「みゃん」
 名前が同じよしみからか、葉月の言う通り似たものどうしだからなのか、子猫は少女にも良く懐いていた。同じ視線の高さに子猫を
抱き上げる。
「ねえ、ちびちゃんは葉月くんが好き?」
「みゃあ」
 肯定するように泣き声を上げる子猫につい笑みをもらす。
「私もね、葉月くんが好きなんだ〜。一緒だね〜」
 こつん、と子猫とおでこをくっつけあう。
「名前も同じだから、葉月くんが好きなのも同じなのかなぁ……」
 自分で呟いてはみるものの、何だか恥ずかしい。
「やだ。何言ってんだろう。恥ずかしい……」
「何が?」
「え?」
 まさか独り言に返事が返って来るとは思わず少女は慌てる。ここにいるのは自分と子猫と葉月だけのはず。
「ちびちゃんじゃないよね……」
「みゃう?」
 ちび子猫に人の言葉が話せるはずもなく。
「は、葉月くん?」
 恐る恐る視線を向ければ、起きたばかりなのか、ぼんやりした眼差しの葉月がいた。
「お、起きてたの? い、いつから?!」
「……『やだ、何言ってるんだろう。恥ずかしい……』から」
「その前は?」
「寝てたからしらない……」
「そ、そう……」
 そっと安堵の溜息を一つ。あんな恥ずかしい言葉を聞かれてしまったら、これから先、葉月と顔を合わせられやしない。
「で、何の話?」
「な、何でもないの! じゃあ、もうすぐ予鈴がなるし。行くね」
 子猫を地面に降ろすと、慌てて少女は走り去ってしまった。
「おいで……」
 手を伸ばすと、子猫は嬉しそうに葉月に擦り寄る。
「起きてる時にはまだ言ってくれそうにないな……」
 苦笑混じりに葉月は呟く。実はしっかり起きていたりした。少女の気配を感じた時から起きていたのだ。起きるタイミングが掴めずに
寝たふりをしていたのだが。
「なんで、俺がお前にあいつの名を付けたのかわかってないしな……。ま、俺も同じだけどな……」
 必要なのはあと少し踏み出す勇気。今の自分を、昔の自分を。少女に全てを明かす勇気はまだない。
「俺はまだ王子にはなれそうにないな……」
 そう呟いて、葉月は子猫の頭を優しく撫で続けた。


 教会で一人待つお姫様に王子様が訪れるのは卒業式の日。その日まで、お姫様と王子様の本当の気持ちを知るのは小さな子猫
だけ……。
 


教室では絶対にやってほしくないなぁ……。あてられるだけだもの……。