月光
星が降りそうなほどに奇麗な夜空の下。闇の守護聖、クラヴィスは宿の中庭で月を見上げていた。
夜もかなり更けており、彼が好む静寂な時間である。
「……。」
月を見上げていても、思いを馳せるのは捕われの天使のこと。今も自らの身よりも、この宇宙を
心配しているだろう。
ガサッ! 物音に振り返ると、そこには彼らと旅を同行する銀髪の青年、アリオスの姿。
「おまえか……。」
冷たく一瞥する視線に、アリオスは動じる様子もない。
「それはこっちの台詞だ。あんた、動かないし、いくら星が見えてるったって、その真っ黒な恰好。
置物かと思ったぜ。」
「そう思うのなら、そうなのだろうな……。」
そう言って、くるりと背中を向けるクラヴィスに青年は苦笑する。
「ま、こんな夜更けにお互い様ってところだな。じゃ…な。」
そう言って、青年は立ち去ろうとする。
「酒で得る安らぎなど…偽りに過ぎぬとわかってるのではないのか?」
その言葉に青年の足は止まる。
「それって…飲みに行くなってことか? あんたがあのお偉いさんみたいなこと言うなんて…な。」
「あれと一緒にされても困るのだがな……。」
この瞬間、彼らが指す人物がくしゃみをしたかどうかは…謎である。
「おまえの闇がどれほどのものかは私は知らぬ。酒で得られる安らぎがどれほどのものかも…な。」
「何が言いたい?」
怪訝そうな瞳で青年はクラヴィスを見つめる。
「わかっているのではないのか?」
「あんたにしては…ずいぶん饒舌だな。」
必要最少限なことも口にしない普段の彼を皮肉ってみるが、クラヴィスは表情一つ変えない。
「饒舌ついでにもう一つ忠告してやろう……。」
「……?」
「どれほど闇を見つめていようと…天使は必ず光を差し伸べる。おまえがどれほど突き放そうとな
……。私がそうだったように……。」
それだけを告げると、クラヴィスは背中を向けたまま去ってしまう。青年は一人取り残される。
(どこまで…気づいている……?)
闇の守護聖なだけあって、闇には敏感なのだろう。特に、自分のような心に闇を持つ者には……。
(まぁ…いずれわかることだ……。)
いずれ、彼らから離れる日が来る。その時までは頼りになる剣士を演じ続ける自信はある。騙す
方が、裏切る方が悪いのではない。騙される方が悪いのだ。
(あいつは…その時どうする……?)
この旅を導く天使を思う。泣くだろうか、罵るだろうか。自分に寄せた信頼をすべて、憎しみに
変えてしまうのだろうか。
「何を…俺らしくもない……。」
そう呟いてはみる。けれど、えぐるように胸が痛む。少女と出会い、同じ時を過ごして行くに
比例して、ひどくなる。息が、できなくなる。
「我には…光など……。」
息苦しさにアリオスは首を降る。それを振り切るように酒場に向かう。酒でこの痛みを麻痺さ
せてしまえばいい。この痛みの意味など知る必要もないのだ。そう自分に言い聞かせて。
そうして…偽りの安らぎの中に今日も酔う……。
友人に送ったものです。贅沢な2ショットらしいです。
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