ふわふわ


 ガタン! 執務室の窓を開けて、ゼフェルはそこから飛び降りる。
「ゼフェル〜」
 ルヴァののんびりとした声が聞こえる。だが、おとなしく捕まってやるような彼ではない。ジュリアスの頭ごなしの説教も
嫌だが、ルヴァのようにのんびりとコンコンとされるのも鬱陶しい。説教を受けないように気をつけるという心理は働かない
のが、彼らしいといえば、彼らしいのだが。

「よっと」
 中庭を突っ切って、外に出ようと駆けてゆく。生垣を突っ切っていけば、こっちのもの。そう思い、突っ切ろうとした。だが、
その瞬間――。

「きゃ!」
「うわっっ!」
 ドスン! 激しくぶつかり合う。
「ってぇ……」
 ぶつかった時の衝動が大きくて、しりもちをついてしまう。
「ったく、おめーかよ。相変わらず、とろくせえよな」
 自分が突っ切っていこうとしたことを棚に上げてのゼフェルの発言にぶつかられた方のアンジェリークはクスンと潤んだ
瞳で彼を見上げる。

「ゼフェル様が飛び出してきたんじゃないですかぁ……」
「う……」
 何故だか、ゼフェルはこの金の髪の女王候補に弱い。しかも、泣かれるのはにはもっと辛いものがある。
「チッ、仕方ねぇな。ほら、立てよ」
 そう言って、手を差し伸べると、アンジェリークはそのてをとって立とうとする。
「きゃっ」
 だが、立ちあがろうとした瞬間に、髪を引っ張られる感覚にアンジェリークは止まってしまう。
「ゼフェル様ぁ…」
「何やってんだよ、おめーは……」
 見ると、ふわふわの髪が生垣に絡まっている。ゼフェルは軽く舌打ちをして、枝に絡まって髪を解いてやる。フワリ…と
甘い香りに思わず手が止まりそうになる。

「ったく。鬱陶しい髪だよな。このふわふわ」
 照れ隠しに言った言葉にアンジェリークは瞳を曇らせる。
「ごめんなさい……」
「頭ん中身がふわふわだから、髪もこんなんじゃねぇのか」
「そうなのかなぁ……」
 解いてもらった髪を見つめるアンジェリーク。ゼフェルのほうはそんな深い意味で言ったことではないので、気に止めて
いないようだ。

「ゼフェル〜、何処にいるんですか〜」
「やば……!」
 ルヴァの声に、自分が逃げていたことを思い出したゼフェルは慌てて駆け出してゆく。後に残されたアンジェリークは
ふわふわの自分の髪をいつまでも見つめていた。


 そして、数日後の日の曜日。
「ちょっと、ゼフェル」
 ノックもせずに入ってくる極楽鳥もとい、夢の守護聖、オリヴィエの姿にゼフェルは顔をしかめる。オリヴィエはけっして
悪い人間ではないが、言いたいことをずばずば、しかも真実をついている分、やりにくい相手であるのだ。しかも、ルヴァと
仲がいい。ルヴァが言わないようなことでも、いってくるのだから。

「んだよ。今日は休日だぜ」
「そんなことわかってるよ。ゼフェル、あんたね、アンジェに何を言ったの?」
「はぁ?」
 いきなりの言葉にゼフェルはきょとんとしてしまう。オリヴィエの少し怒っている様子にただごとではないものを感じる。
「アンジェがどうしたんだよ」
「あの子、ストレートパーマかけてほしいって、泣きついてきたんだよ」
「はぁ?」
「今、執務室で待たせてるよ」
「あのバカ……!」
 たぶん、原因は自分の言った言葉であろうと容易に察することが出来る。慌てて、部屋を飛び出すゼフェルであった。
「お待たせ、アンジェ☆」
「あ、すみません。オリヴィエ様。…と、ゼフェル様?」
 きょとんと自分を見つめるアンジェリークにゼフェルはすたすたと近づいてゆく。
「おめー、ストレートパーマって……」
「はい。せめて、頭だけでもフワフワじゃなくなったら、少しは落ち着いてみられるかなぁって思ったんです」 
 にっこり。あどけない笑顔。確かに頭がフワフワだから、中身もフワフワと言った自分の発言に問題はなかったのかも
知れないと思ってしまうゼフェルである。だが……。

「バカか。おめーは」
「はい?」
 ふぅ…と溜め息を吐く。確かに、あの言葉を言ったのは自分である。だが、本気で言ったわけではないのだ。
「おめーな。んなことする必要はねえんだよ。おめーはそのままでいいんだよ」
「え?」
 きょとんと見つめてくる丸い瞳。ゼフェルは苛ついたように怒鳴りつける。
「だから、おめーはそのままが一番可愛いって言ってんだ!」
 怒鳴った後で、ふと我に返る。今、自分は何を言ったのか……。
「う……」
「ゼフェル様?」
「じゃあな。それだけだ!」
 そのまま、バタバタと入ってきた勢いのままに飛び出してゆく。
「ったく…素直じゃないよね、あの子も☆」
 キャハハ…と楽しそうにオリヴィエは笑う。
「そうなんですか?」
 いまだに現状を把握していない少女に内心でゼフェルに同情してしまう。
「ま、そう言うこと。あんたはそのままが一番可愛いって、保証付きなんだから、そのままでいなよ」
「わかりました」
 まぁ、よくはわからないが、そのまま素直にうなずくアンジェリークなのであった。

ずっと書きたかった、ゼフェル×リモージュのお話です。ふわふわな女の子って、書くの楽しいんだもの。この続き、あるけど、
読みたいって人、いるかなぁ……。

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