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それは不意打ちのように彼がしかけたキスから始まった。
「不公平だわ」
理不尽だと言わん許りに拗ねてしまう恋人にアリオスは苦笑する。
「何がだよ」
「私ばかりドキドキしてる」
「?」
何かと思えば、可愛い言葉。こみあげる愛しさに笑みをこぼすがますます不機嫌になってしまう。
「いつも、アリオスに振り回されてるんだわ、私って」
年上の彼はいつも余裕で。いくらアンジェリークが張り合おうとしてみても、無駄なあがきになってしまう。さっきもそう。キスの一つで
この恋の主導権を握られている気がして。翻弄されてばかりだ。
「何の話だ?」
「アリオスに振り回されてて、私って可哀相だなって思ったの」
「おまえが、か?」
「何よ……」
ジイッとにらみつけてくる少女の強い眼差し。強い意思の輝き。引きこまれずにはいられない。
「バーカ」
「な、何よ、それ。私は真面目に言ってるのよ!」
ビシッとまっすぐにアリオスに対して指を差すアンジェリーク。クク…と笑い、アリオスはその手を取り、アンジェリークを引き寄せる。
「キャッッ!」
途端にアリオスの腕の中に閉じ込められてしまう。
「な、何するのよ!」
「知らないのか? これは仕返しなんだぜ?」
「何の話よ?!」
楽しそうに自分を腕の中に閉じ込める恋人に抗議の声。当然の反応ではあるが。そんなアンジェリークをジッと見つめる金と緑の瞳。
「俺はおまえにいつも振りまわされてるからな」
「嘘。私、そんなことしてない!」
意外な切り返しに、アンジェリークは首を振る。覚えがないものは、覚えがない。
「あの旅の時にも自分のことで精一杯なはずなのに、他人のことに首を突っ込んで、俺を巻き込んだよな」
「……あ、あれは〜」
転生する前の青年との旅の途中のことを指摘されて、アンジェリークは反論しようとするが、アリオスの方が早かった。
「転生してきてみれば、記憶を取り戻すまでのことはともかく、その後だ」
「私が何をしたというのよ……」
「滝が流れるのを見て、流しソーメンを連想したのはどこのどいつだったか。とんぼをつかまえようとして、自分が目を回しもしたよな」
「……」
「猫じゃらしを見ては、自分がじゃれたがりもしたし、噴水を見て、ケーキだとぬかしもしたよな。挙句の果てに、飛び降りようとして、
俺をからかいもしたし」
全て事実なので、指摘されて、反論も出来ない。
「あと……」
「もういい。わかったわよ〜」
これ以上、言われると流石に立場が危うい。いわれた事はすべて事実。反論のしようもない。
「わかったわよ、それは認める」
とは言え、それでも自分が振り回されているというのは事実なのだ。
「でも、私ばっかりがアリオスにドキドキしててずるい!」
「してるぜ。俺はいつも」
「嘘!」
反論の声にアリオスは軽く肩を竦めて見せる。
「おまえに振りまわされて、目が離せなくて、何時の間にか俺はおまえだけを見るようになってたからな。さっきだってそうだ。いきなり、
『不公平』だって来られて、とうしようかと思ったぜ」
「口ではなんとでも言えるわ」
あくまでも信じようとしない少女に苦笑する。確かに、どきどきしているところなどを見せたことはない。…と言うより、見せられるはずが
ない。彼のプライドにもかかわること。だが、このままでは埒があくはずもない。
「じゃあ、証拠を見せてやるよ」
掴んだままの腕を自分の心臓の辺りにもって行く。伝わるのは微かに早い鼓動。
「アリオス……?」
「いつだって、ドキドキしてるぜ?」
耳元で囁かれる声は確かに真摯で。何よりもその鼓動がその言葉が真実であることを何よりも示している。
「でも、足りない……。もっと、ドキドキしてよ。私がドキドキするよりも……」
「足りないって、おまえ――!」
それ以上は言葉にならない。柔らかな少女の唇が自分の唇をふさいでしまったから。
「……」
「ドキドキ…した?」
悪戯な瞳で見上げてくる。やはり、振りまわされているのは自分なのだとアリオスは思う。だが、それに甘んじる彼であるはずがない。
クイッと少女の顎を持ち上げる。
「もっと、ドキドキさせてみろよ……」
最初は啄ばむように口づけて。そして、深くなってゆく。互いの情熱だけを高め合う。
24000番を踏まれたEmi様からのリクエスト。「ちょっとアンジェに振り回されているアリオス」です。でも、トロワで十分振り回されて
いる気がしたので、こんな話にしちゃいました。
<贈り物の部屋へ>