あどけない呪縛


「イーリスは寂しくないの?」

 吟遊詩人の私にそう尋ねたのは遠く故郷を離れた少女。だから、私は聞き返した。
「あなたはさみしいのですか?」
と。

「わかんない……」
 その途端、困ったような幼子のような表情になってしまう。予想はしていた反応だ。困らせるために
言ったのだし。

「じゃあ、私だって判りませんね」

 笑顔でごまかすことは昔から得意なこと。寂しいなんて思ったことはない。流れて生きることには
慣れてしまっている。流れるままに、流されるままに。この身一つで生きてゆき、死んでゆく。それが
私の運命だ。私を留めるものなど、何もない。

「ごまかしてない?」

 あどけなくもあり、時折、深い真実を見つけだす大地の色を宿した瞳が私を見つめる。強い意思と
生命力。私とは相入れない世界にいる少女。

「何を、ですか?」
「だって、イーリスってば、何も要らないって瞳してるよ」
「私ほど物欲に塗れた人間もいないと思いますが」

 敢えて、この身につける装飾品を翳して見せる。私にとって数少ない確かなモノ、だ。

「でも、執着ないって瞳だよ」
「何を……」

 彼女の言葉が判らない。私の何を見ているのか。苛立たしい半面、心の何処かで望んでいる。私を
強く留めようとする彼女を。
 いや、望まなければ、失わない。ただ、受け止めて、流されればそれでいいのだ。今までも。これ
からも。

「あなたと私は違うんです。あなたのようにしたたかには生きられない。これが私の生き方なのです
から」

 ひどく淋しそうな瞳。自分のことではないのに。胸が痛い。私のことではないのに。あなたにそんな
顔をさせたというだけのことで、私には全く利害がないはずなのに、だ。
 愚かにも願ってしまいたくなる。あなたほど、不確定で不安定な存在はいないのに。

 それでも、私を留めるのがあなたなら、私は……。


イーリスを書いてみたいと思ったところに、ERIさんがイーリスファンになったのを知り、押し付けた代物。極悪人な私……。