誰にも言えない恋だから
偽りの時間、偽りの姿で。二人は抱きあう。現実を忘れて。全てを忘れて。互いを縛る枷を今だけは外して。乾いた
部屋の中で。互いのすべてをさらけだして。いや…乾いているのは部屋だけではない。互いの心が渇いている。互いの
存在を求めて、渇きは止まらない。
微かな衣擦れの音。わずかな灯では吐息が触れるほど近づけなければ、互いの姿を見ることができない。だが、その
もどかしさが今の二人にはちょうど良かった。
「あ……」
二人分の重みにきしむベッド。ベッドに横たわされた少女は不安げに青年を見上げる。
「今なら…止められるぜ……。」
鮮やかなグリーンの瞳が暗い中にも少女には輝いて見える。そして、それが奇妙な安心感をもたらせてくれる。
「いいの……」
微かに告げられる言葉。
「もう、止めないから…な……。」
その言葉と共に降りてくる口付け。少女は瞳を閉じて、受け入れる。もう…戻れない。そんなところまで来ているのに。
それでも、互いを求めあう…それは、罪。だが、今の二人にはもうそんなことはどうでもいいことなのだ。
そうして…偽りの宴が開かれてゆく。
「ん……」
幾度も互いを確かめるように交わされる口付け。軽くついばむように。深く、互いの想いを伝えあうように。
素肌が触れあうたびに火花が散るような。それは決して相容れないもの同士だからだろうか。だが、それすらも少女の
体に熱い熱を生み出してゆく。
「やぁ……」
胸元に落とされる口付け。赤い刻印はいくつも残されてゆく。青年のものであることを表わすかのように。そして…少女が
望むように。今、この時間だけは少女は青年のものであり、青年もまた少女だけのものだから。 少女の身体が熱を帯び
淡く染まってゆく。少女のその姿に、青年も自分の中の少女を求める熱さを自覚する。
「あっ……」
青年の熱をその身体で受け止めて、少女の身体が硬直する。少女の身体から力が抜けるまで、繰り返される口付け。
「ん……」
少しずつ自分を受け入れてゆく少女の顔中に口付けを落とす。そして…二人の熱を共有してゆく。
「んぅ……」
互いの生み出す熱に染まってゆく少女に青年もまた自分の中の熱に染められてゆく。互いの熱に染め尽くしたとき…宴の
終演がやってくる……。
互いの熱の熱さに耐え切れずに、意識を失った少女に青年は優しく口づけると、身仕度を整える。そして、少女の身体に
毛布をかけてやる。
「愛してる……」
決して…少女に意識がある時には告げられない言葉。許されない言葉。
「早く…我の元に来い……。天使よ……」
呟くと、月光を思わせる銀色の髪は、深い闇の漆黒に。そして、金色と緑の瞳。
青年はこの宇宙を手に入れようとする侵略者。そして…少女はそれを阻止するために使わされた天使。出会ってはいけ
なかった二人は出会ってしまったから。運命…と一言で片づけるにはあまりにも二人は心魅かれすぎていた。
偽りの宴。決して…本物になるはずがない。だが…どうしても触れずにはいられなかった。
「おまえになら…俺は……」
それ以上は言葉にせず、口付けで伝える。自らの意志で、青年の腕にとらえられた天使に。そして…彼は姿を消す。そこ
には何の痕跡も残さずに。
「……アリオス」
青年が消えた後、少女の瞳から涙がこぼれる。触れ会った熱はまだ身体に残っている。青年が残した刻印はまだ赤みを
残している。けれど…彼はもう、いない。明日になれば…少女は青年と向き合うのだ。互いを殺しあう存在と見なして。
毛布に包まって、アンジェリークは涙を流し続ける。もう…戻れないところまで来てしまった。誰にも…もう、止められない。
けれど…今だけは。彼の残した熱に包まれる。朝が来れば、嫌でも現実が待っている。ならば…今だけでも、現実を忘れ
たい……。もう…何も考えたくない。そう…彼の温もりがまだ残る間だけ……。
すみません。ダークです。タイトルは辛島美登里さんの同名の曲から。「誰にも言えない恋もある、死ぬまで引きずる恋もある」
って部分がもう、ツボでして。
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