君と出会って
それはある夏の日の朝のこと。
「ほら。竜。おすそわけ」
朝も早くから家に来られて、炎から手渡されたのは重箱。珍しく、戸惑う竜である。
「重箱は持っ帰って来いってら、適当な容器に移してくれるとありがたいんだけど」
「今日はお前の誕生日じゃなかったのか……?」
そう、彼が戸惑っていた理由はこのこと。普通、プレゼントされるのは炎のであって、何でまた、彼が重箱を持ってくる必要が
あるのか…と考えてしまう。
「二十歳になったからさ……。これで炎も立派な成人ねって、赤飯を炊いてくれたんけどさ、うち、三人家族なのに、もち米と
小豆がたくさんあるからって、あるから、大量に炊いて……」
「なるほど……」
見てみると、重箱の中には炊き立てであろうお赤飯が入っている。
「そういうわけで、食いきれないから、協力してくれ。このままじゃ、三食のご飯が赤飯になっちまう」
「……わかった」
重箱の中のお赤飯は美奈子と二人で食べても余るくらいの量。炎の母親はどれだけ炊いたのだろうかと思わず考えてしまう。
「わぁ、お赤飯だぁ…」
竜に陽気に映して、重箱を洗うように言われた美奈子は嬉しそうに赤飯を見つめている。
「お袋の赤飯はさ、もち米ばっかりだし、ちゃんと蒸し器で炊いてるやつだから、店のより美味しいぜ」
実際、炎はめったなことでは店の赤飯には納得しない。
「竜。もち米ばっかのやつだから、腹持ちするぜ。バイトの前に食ってけよ」
今日は工事現場のバイトだっただろ…と付け加えて。
「ああ、そうさせてもらう」
「じゃあ、詰めてくるから待っててね」
うきうきと台所に向かう美奈子であった。二人暮しでは炊くこともないし、美奈子も竜も出来合いのものはあまり食べる気になれ
ないこともあり、珍しいのだ。そんな美奈子の様子に二人、顔を見合わせて笑う。
「美奈子はケーキを作ってるからな。バイトが終われば、二人で持っていく」
「ああ。楽しみに待ってる」
気がつけば、出会って、5度目の夏。出会ったのは偶然なのか、必然なのか。地球を守る勇者などにもなって。色々とあって。
今、二人がこうしていて。歴史にもし…などと言うものは存在しない。そうなった事実がそこにあるだけ。だが、もし、あの日、あの
時に出会わなければ、今の二人は存在しない。そして、それは彼がこの時代に、この国に生まれてくれたから。そのことを感謝
する為に、人は誕生日を祝うのだと思う。
一生を生きて行く中で、知り合う相手は無数にいる。だが、出会えて良かった、そう思える相手には滅多にはいない。
「どうした、竜」
ふと気づけば、覗きこんで来るまっすぐな瞳。出会った頃から、何も変わらない……。
「いや、二十歳になっても、変わるところがないってな……」
本心など、言えるはずもない。案の定、むっとした表情になる。
「悪かったな、変わらなくて。でも、もう俺は立派な大人だぜ。な、少年」
悪戯っぽい瞳で切り返してくる。だが、その言葉に竜はなにかを含んだ笑みを見せて、炎を引き寄せる。
「竜……?」
戸惑うより先に、唇がふさがれて。深く激しい口づけに炎の意識が白くなる。
「…んだよ」
「大人は子供の我が侭に付き合うものだろう?」
「…あのな」
唇を押さえて、真っ赤になりながらのその表情。竜はフワリ…と笑みを浮かべる。
「誕生日、おめでとう」
そんな顔でそんなことを言われたら、炎にすれば折れるしかなくて。
「サンキュ……」
ぶっきらぼうな言い方で、せめてものプライドを保つ炎であった。
炎の誕生日創作です。仕事始める前の30分足らずで書きました。で、家で清書。すみません…
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