コンプレックス
アンジェリーク、その名は天使を意味する。それはアンジェリークにとってはわずかながらにコンプレックスで
あった。
(どうせ、私は天使って柄じゃないわよ……)
そうからかわれることもあったし、自分でも自覚している。負けん気が強く、自分が納得いかないことは納得
するまでひかない性格だ。下手な男子よりも漢らしいと評され、外見の愛らしさにも関わらず、女の子に人気が
あった。
それでも、アンジェリークは自分を交えることも、曲げることもしなかった。それは彼女を包む環境ゆえにだ。
「戦う天使ってのもありだと思うよ」
「ちゃんと自分で羽ばたける翼をあなたは持ってるんだから」
名付けた両親は娘の名を名前負けだとは思ってはいないようだ。だが、こうしてのほほんと答えるものだから、
当の本人が気にすることになるのだ。
「大丈夫、黙っていれば天使のように可愛いから。アンジェはお父さんの自慢の娘だよ」
「おとうさん、フォローになってない……」
もっとも、こういう親だからコンプレックスが軽くて済んでいるのかもしれない。
「あのね、アンジェリーク。お父さんとあ母さんは昔に同じ夢を見たの。らぶらぶだった恋人同士の頃ね」
「おかあさん、今はらぶらぶじゃないのかい?」
「あら、あなた。今は夫婦としてラブラブでしょう?」
「そうか、そうだね。可愛い娘もいるし」
途中で話がずれているだけでなくのろけあいである。自分の性格がこうなったのは両親にも要因がある気が
する。こういう親だから、自分がしっかりせねばと思うのだ。
「で、夢って?」
半分苛立ち紛れに先を促すのも自分の大事な役目なのだ。
「暖かな光に包まれた可愛い天使を受け止めるの。とても、愛しくてたまらなかった……」
「おかあさんと話をしていた時にこの夢の話になってね……。同じ夢を見たのなら、それは運命だと思ってね、
お父さんとお母さんは結婚したんだ」
「そうして、時が過ぎて、あなたが産まれたの。夢で見た、可愛い天使そのままのあなたがね。だから、私たちに
とってはあなたが天使なのよ」
疑うこともなく、真顔で言われると、さすがにアンジェリークも真っ赤になる。
「こんなに気が強い女の子に育っても?」
アンジェリークの言葉に二人は顔を見合わせて笑いあう。
「大丈夫、アンジェリークは優しくて可愛い女の子だよ。ちゃんと、お父さんとお母さんはわかってるから。そして、
それをわかってくれる人がいつか現れるから」
「そのままのアンジェリークでいいんだからね。それを認めない方がナンセンスなんだから」
女の子だからとか、子供だからという押し付けをしない。そんな両親の元で育ったからこそ、自分が自分でいら
れるとも思っている。
女王試験に送り出す時も、新宇宙の女王になると決意した時も両親はそう言ってくれた。天然ではあるけれど、
自分を理解してくれる、大好きな両親だった。
「面白い親だな、やっぱりお前の親だな」
「…どういう意味よ」
両親の話をすると、たいていの人間は個性的だとか面白いだとか言うけれど。アリオスの物言いは大変失礼に
聞こえる。しかも、爆笑の後だ
「両親がのんびりしてるから、しっかり娘になったのよ?」
「お前、妙なところでボケてるからな」
あっさりと言われる。憶えはない。むっとしたアンジェリークにアリオスは肩をすくめて、話題の転換を図った。
「でも、お前は自分の名前は好きだろ?」
「そりゃあ、ね……」
コンプレックスの源ではあるけれど、両親が愛情を込めて名付けてくれた大切な名前だ。嫌いなはずがない。
「どうしてわかるの?」
「お前とは逆だったけどな。俺は前の自分の名が疎ましかったからな……」
「レヴィアスの名が?」 罪人としてのその名、だ。
アリオスは過去のことを語りたがらない。だから、断片的にしか知ることはできないが、愛情に飢えていたのだと
言うことだけは知っている。
「じゃあ、アリオスって言う名前は?」
皇帝ではなく、一個人としての彼の名前、だ。かつては偽りの名前だった。だが、今の彼にとっては本当の名前だ。少なくとも、アンジェリークはそう解釈している。
「お前が俺をその名前で呼んでくれただろう?」
「え?」
「覚えてねえのか? 俺の名をお前はそう呼んだんだ。だから、俺はアリオスなんだぜ」
「あ……」
アルカディアでの再会で確かにアンジェリークはアリオスが記憶をなくしていることを知らずに、その名を呼び掛けた。
「じゃあ、私がレヴィアスって呼び掛けたら、どうしてたの?」
「多分、記憶を取り戻したら、お前の前から去っていたな……」
「どちらのあなたでも私にとってはたった一人のあなたよ?」
アンジェリークは困ったような顔をする。
「おまえはそうだろうな」
そうでなければ、罪人たる自分に手を差しのべなどしない。ある意味、これはアリオスのプライドの問題だった
のだから。
「細かいことは気にしなさそうだもんな」
「何よ、それ〜」
「さぁな……」
はぐらかして、本音は隠してしまう。ふくれてしまった天使にアリオスは笑う。望んでいたのはアリオスであった
自分。この天使とともに生きる時間。それはアンジェリークがアリオスの名を呼んでくれたから始まったのだ。
アンジェリークが自分の名を好きなように、アリオスも自分の名を大切に思っている。けれど、一生言うことはない。
弱みを握られるのは癪なのだから。とりあえず、この場を同士の豪華考えるアリオスであった。
手を怪我して出せなかった新刊の代わりに…と思って書いた話です。アンジェの両親が大物ですねw たとえるなら、リモちゃんが
二人いるような環境……。
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