Why?
「泰明さんは私のどこが好きですか?」
突然の少女の言葉に泰明は困ってしまう。
異世界より、京の危機を救うために呼ばれた少女は京だけでなく、泰明にとっても、かけがえのない存在となった。そして、
今は元の世界へは戻らず、泰明の側にいる。互いの存在を求めあった末に選んだ決断であった。
何よりも大切な存在だが、今、改めて聞かれると答えにくいのだ。
人ではない存在である泰明をただの“人間”として誰よりも愛してくれる。空っぽだった心に愛を注いでくれた。
どこが好きなのかなんて、たくさんありすぎて、答えられない。
「なぜ、そのようなことを聞く?」
「だって、泰明さんか内裏の女の人達に人気があるって、聞いたから……」
そう言うと、少女はうつむいてしまう。封印が解けた泰明の整った顔立ちに、心色めく女性が後を立たなくなったというのは
もはや常識の話。随分と柔らかくなったその表情に切ない溜め息を漏らす女性もいるという。もっとも、それはただ一人の
少女のためだけであり、少女が不安になる必要などないのだが。
「ごめんなさい。泰明さんがとても素敵だから、私のどこがいいのか、分からなくなってきたの……」
大好きな人はとても素敵で、有能な人。時々、自分が相手に相応しいのか分からなくなる。ずるいかもしれないが、確かめて
みたくなる。
「じゃあ、神子は私のどこが好きだ?」
「泰明さん……」
泰明の切り返しにどう反応しようかと少女は考える。
「人ではない、作りものの存在でしかない私を神子は好きでいてくれる。神子を好きでいる者は数多くいるのに」
「まさか、そんな……」
自分に向けられる好意に、この少女もひどく疎い。そのあたりは泰明と同レベルかもしれない。
「神子の綺麗で優しい心が好きだ。曇りのない瞳は美しい。抱き締めたら、柔らかくて甘い香りがする。髪が風に軽やかに
靡くところも綺麗だと思う。これ以上も、たくさんありすぎて……。私は言葉が足りないから、上手く言えない……」
「泰明さん……」
まっすぐなまなざしで、こんなことを言われてしまえば、当然ドキドキする。女である自分よりも遥かに綺麗な人。そして、
自分よりもずっと純粋で綺麗な人。彼は言葉を選ばない。いつも真実だけを告げる。時にはそれがきつく聞こえるけれど、時
には喜びをもたらしてくれる。そう、今のように。
「私は泰明さんの全部が好き」
後ろからぎゅっと抱きついて、告げる言葉。言葉だけじゃ、足りないから。行動にでる。
「闘っているときの泰明さんの姿も、首を傾げて笑う姿も、私より純粋な心も、まっすぐに見てくれるまなざしも、好奇心がある
ところも。計りきれないほど好き」
「神子はずるい……」
「え?」
まわした手に泰明の手が重ねられる。
「私だって、神子の全部が好きだ。そう言わせてくれなかった」
「……」
子供のような言葉にあかねは笑みをこぼす。
「また一つ、好きなところが出来ました。今の泰明さん、可愛くて好き」
その言葉に泰明は振り返る。
「ならば、私は今の神子の顔ががとても好きだ」
「増えちゃうんですね、きっと」
「ああ、神子だからだ」
「私も、泰明さんだからですよ」
互いに顔を見合わせて、クスリと笑いあう。
「もっと増えるぞ」
「私もです」
いつだって、互いに恋をして。終わることがない。それはまさしく史上最高で、史上最強の無敵の恋。たがいの存在がある
からこそ、進化していく。
「泰明さん、大好き」
「私も神子が好きだ」
ぎゅっと抱きしめあえば、もっと思いが伝わる。それは恋をしてはじめて知ったこと。そして、なりよりも幸せなこと。
そして、無敵の恋人同士は今日も互いの存在を糧にして、思いを伝え合うのであった。
れいささんへの差し上げ物。ゴメン、このあかね、足りない……。
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