強さの理由


  “京”と呼ばれるどこか平安時代の京都を思わせる世界に召喚され、やってきたのは、京を守る力を持つという
“龍神の神子”、元宮あかねとその存在を守護する“八葉”のうちの二人、森村天真と流山詩紋であった。だが、
呼ばれた方としてはたまったものではない、それか呼ばれた天真の言い分であった。
 行方不明の妹、蘭のことさえなければ、今すぐにあかねと詩紋をつれて、元の世界へ何としてでも帰るつもりだった
のだから。
(あかねはもっと大変なんだろうけどな……)
 龍神を呼べる唯一の存在。京にいるのか、いい人間ばかりいるとは限らないのも事実で。実際、詩紋がその外見
から、鬼呼ばわりをされていたりしているのだ。自分の世界でないもののために頑張ってほしいというのはむしのいい
話だ。元の世界に帰るためというのも、なかば脅迫のようだとも思える。そんな中で、あかねは元の世界に戻るため
だけでなく、何とか判りあえないかと、道を模索している。
「あかね」
「何、天真くん?」
 ぼんやりと庭を眺めていたあかねは、天真の呼び掛けに慌てて振り返る。
「おまえ、辛くないか?」
「え?」
 天真の問いに戸惑っているあかね。
「天真くん、辛いの?」
 と、聞き返してくる始末。
「んなことねえよ。ただ、おまえが色々押しつけられて、滅入ってねえかって……」
「心配してくれてるの? ありがとう」
 照れくさそうにあかねは笑う。
「でも、平気だよ。今ね、戦闘の時の決台詞考えてたんだ」
「決台詞?」
「うん、ほら、私って龍神の神子だし。ないと不便かなって」
 どこか悪戯っぽい表情であかねは笑う。
「で、もう決めたのか?」
「うん、“龍神に代わってお仕置よ!”って」
 ご丁寧に決めポーズまて披露してくれる。だが、それは天真を脱力させるだけの効果しかもたらさなかった。
「おまえな……」
「あはは。冗談だよ」
 そう言って、あっけらかんと笑うと、あかねは天真の顔を覗き込む。
「ごめんね、せっかく気を使ってくれてるのに、冗談言って」
「いうなら、もっとましな冗談を考えろよ。こっちの人間には通じないぜ」
 通じないと言うより、洒落にならないと言った方が正確だ。龍神の神子であるあかねの言葉はそれだけの重みか
あるのだ。
「うん。だから、天真くんに言ったんじゃない。だから、私はまだ大丈夫だよ」
「はぁ?」
 話の展開のつながりのなさに天真はついていけない。屈託なく、あかねは言葉を続ける。
「冗談言えるくらいには大丈夫なんだよ?」
「ああ、そうか……」
「見知らぬ世界に私一人だったら、耐えられなかった。天真くんや詩紋くんがいてくれるから、私は頑張れるの。誰
よりも私を支えてくれる」
 だから、大丈夫と屈託なく笑う。小さくガッツポーズまでしてみせて。いつだって、この少女はそうだ。
(それはこっちのセリフなのに、な)
 そう思いつつ、そんな彼女だからこそ守りたいとも思うのだ。もしも、あかねが神子でなかったら、すぐにでも詩紋を
連れて、飛び出していたかもしれない。
「無理してんじゃねーよ」
「無理なんてしてないよ。無理してるのは天真くんの方!」
ピシッと天真に向けて、あかねは指差す。普通は礼儀に欠ける態度だが、彼女らしいとも思える。
「怨霊との戦いや御札集めとかだけじゃなくて、妹さんを探してるんだもん。本当なら、そっちに集中したいでしょ?」
「俺は、別に……。みんなで元の世界に帰るって決めたし、おまえを守るためでもあるんだからな」
「本当はみんなが幸せになれたら、一番いいのにね……」
それは今のこの世界では難しいことはわかりきっている。自分たちがいた世界でさえ、世界のどこかで人が争っている。
差別がなかったわけではない。実際、詩紋がその外見で色々と辛い思いをしてきたのを二人は知っている。
「変えられるさ、きっとな」
「そうだね。私たちがそうできるって信じなきゃ、誰もついてこないよね」
あかねのその言葉に天真は苦笑する。何も気づいていない。あかねがすべてを変える風を持つことを。傷つくことを恐れ
ない真っ直ぐであるがままを生きる彼女だからこそ、自分を含む八葉が守りたい、と思うのだ。
表面だけでなく、真の自分自身でいることを教えてくれた彼女だからこそ……。
きっと、気づいてもいない。だが、それがあかねらしくていい。自分が強くなる理由があかねにあることを自覚しつつ、競争
率の高くなる戦いへの予感に苦笑する。
「?」
 そんな天真の様子にあかねは不思議そうに首をかしげた。

 こんなのを快く受け取ってくださったさおりーぬ様の心の広さに感謝……。