「恋愛の才能」



 例えば、その言葉を口にしたら、どうなるのかしら。
 私は異世界から来た人間。平安時代を思わせるこの世界にあの人は生きている。私よりもずっと大人の人。
何かと私をからかって、それでいて、世話を焼いてくれて。ありがたいけれど、少し悔しい。だって、あの人から
見たら、私なんて子供だもの。そりゃ、一回り以上離れているから、仕方ないと言えば、仕方ない。

 でも、嫌いじゃない。むしろ好きなの。年齢を感じさせない外見はとても素敵だし。立ち居振舞いも雅ってカンジ
だし。口だけじゃなくて、やることはちゃんとしてくれる。それに、あの声が〜。あの声で名前を呼んでもらえたら、
最高だろう。もちろん、私は“龍神の神子”と言う立場があるから、そんなことをお願いはできないんだけど。退屈
すぎる人生を生きているっていってる割に、私といると飽きないって言ってくれるのは複雑だけど、嬉しいの。それ
にね、時々見せてくれる照れた顔。子供みたいで可愛いの。そんなことを口には出さない。いいようにあしらわれて、
からかわれるのは目に見えているもの。

 あの人のことを考えると、ドキドキする。フワフワした感情。暖かくて、優しくて。多分、これは恋だと思う。思うって
言うのは、こんな感情が実は初めてだったりするから。高1になってって言うのは、遅いかもしれないけど、そう
思える相手に出会わなかったし、いなかったんだから、仕方ない。天真君や詩紋君は友達だから。元の世界では
よく誤解されてたんだけど。天真君はそんな余裕がなかったみたいだし。(今にして思うと、妹さんの1件があった
からよね)。紫紋君は弟みたいだし。あのね、紫紋君の髪って、フワフワで触ると気持ちいいの。あんなに綺麗な髪と
瞳をしているのに、鬼扱いする京の人のセンスがわからない。文化の違いとは言え、これは悲しいよ。鬼の一族の
件にしても、こんな誤解から始まったのかなぁ……。自分たちを鬼と呼ぶなんて、悲しい気がするんだけど。あ、話が
それちゃった。とにかく、これは私の初恋なのよ。

 だから、私、決めたの。まだ言わない。“好き”だなんて。私からは。別に自分が異世界の人間で、元の世界に戻ら
なきゃならないから、いずれ来る別れを悲観しているだなんて、そんなことじゃないの。その時はその時だし。何て
言うか、形にするともったいないような気がして。“好き”って、言葉だと簡単になっちゃう気がするんだ。

 それにね、うぬぼれてるって思われるかもしれないんだけど。あの人も私のこと見ていると思うの。なんでって、私も
あの人を思ってるのよ。だから、わかるんだ。でも、まだ確かめたりはしない。もう少し、このままでいていたいの。

 こんなこと、あの人が知ったら、また笑われるのかしら……。でも、負けないから。恋する女の子をなめてかかられ
ちゃ、困るんだから。



 言葉はすぐに色あせてしまう。想いもそう。歌に託す想いはその時は真剣だろう。だが、すぐに違う色を求めてしまう。
何もかもに本気に溺れることなど、すっかり忘れていた。ただ、目の前にあるもので退屈をしのいで、その日を生きて
いる。やることさえやっていれば、文句は言われないし、言わせないだけの能力はあるつもりだ。半ば日常に流される
日々の中、待っていたのかもしれない。この日々を変えてくれる存在を。私自身を変えてくれる存在を……。      

 鬼の一族がこの京を支配する為に行動を起こしたこと。そして、彼らの野望の道具として、この京を守るための存在と
して、召還された龍神の神子と呼ばれる少女。この少女と出会ったことが私の中の何かを変える存在となった。    

 習慣や文化が違うのだろう。奔放で行動的で。いつもは大人びた藤姫が時折、子供らしく笑うようになったのは彼女が
来てから。そして、落ちついていた彼女を慌てさせることも彼女の行動ゆえ一瞬たりとも目が離せない。離したら、次の
瞬間には手に届かないところに行きそうだから。                                           

  自分でも驚くべきこと。情熱なんて色あせていたはずなのに。そう、“桃源郷に輝く月”などと言って、手に届かないと
決めつけていて。手を伸ばせば、そこにあるものだったのに。いや、そうじゃないね。手を伸ばすだけの存在がなかった
のだ。君に出会うまでは……。                                                    

 自分でも不思議だよ。こんな風に誰かを思うだなんて。それはすごいことなんだよ。こんな風にただ一人を想える日が
来るなんて。まして、私よりずっと年下の少女にだ。翻弄される日が来るなんて、誰が思う?                

 でもね、まだ言葉にしないよ。勿体ないからね。曖昧でいて、ちゃんと私の中に存在している輝き。形にしたら、すぐに
色あせてしまいそうで。おかしいだろうね。君よりずっと年上のはずなのに。こんな所で戸惑ってしまうなんてね。でも、
それが私の本心だから。                                                        

 それに、君も私を想ってくれていることは知っているから。君を見ているんだ。気づかないはずがない。君は笑うかな。
 そりゃ、君が神子の役目とは言え、他の八葉と一緒にいるところを見ていて、面白いはずがない。けどね、時々、不意に
 視線がぶつかる瞬間がある。無意識に私が君を見つめていて、君が私を見つめていて。そういう瞬間、二人して、笑い
あって。見詰め合う…と言うのもいいけれど、不意に絡む視線の瞬間の方が嬉しいんだ。とても素敵なことだろう?   



「やぁ、神子殿」
「おはようございます、友雅さん」
 互いに想いのベクトルは同じもの。けれど、まだ、言葉にはしない。今がそういうときでないから、だなんて、
固い考えではなくて。同じ想いを抱えていることを互いに気づいているから。言葉にするのはなんだか勿体
無くて。形にしなくても、笑顔を交わすだけで、伝わるものがある。


 それは恋する者だけが持つ事のできる才能。恋愛という名の魔法がもたらした……。


 遥か限定キリ番を踏まれたれな様からのリクエストで友雅さんとあかねの話です。元ネタは同名の曲です。こんなカンジの
二人って言うものアリかな…と思ったので……。