Sweet Day


二月の最初の日の曜日。何気なく厨房を除いたロザリアが見たものはたくさんのお菓子の材料に囲まれたアンジェリークの
姿であった。

「何してるの、あんた……」
 この時期のお菓子づくりと言えば、二月の最大のイベントであることはわかる。だが、二人は女王候補で、今は次期女王を
決める女王試験の真っ最中。恋愛などと言ってる場合ではないのだ。

「あのね…バレンタインデーも近いから」
「あんたね…私たちは女王候補なのよ。そんなお菓子業界の陰謀に加担している暇があるのなら、他にやることもあるで
しょう?」

「でも…今日は日の曜日でお休みよ?」
「あんたはこの私と違って、要領が悪いんだから。人の倍、努力しないといけないでしょうが!」
「それはそうだけど……。でも、せっかくのバレンタインよ! 大好きな人には大好きって形にしたいんだもん」
 泡だて器片手に力説するアンジェリーク。いつもにもまして、熱心な瞳。
「わかったわ。勝手になさい」
 そう告げると、早足でロザリアは厨房を出てゆく。それを見送ると、アンジェリークは悲しそうな瞳で作業の続きに入って
いった。


 一方、どこに行くと言う当てもなく、ロザリアは歩いていた。
(どなたかに差し上げるってことは…守護聖様のどなたかに告白するってことよね……)
 明るくて、愛くるしくて、あどけなくて。フワフワの金の髪とあいまって、まさに天使のような少女に好意を寄せる者は多い。
次期女王候補だと言うのに、デートに誘う守護聖も多いのだ。

(私に相談もないなんて、悲しいじゃない……)
 もし、思いが通じれば、アンジェリークは女王候補を下りることになる。せめて、一言くらい相談はほしかった。最初はライ
バルとして接していた。だが、屈託なく自分に接してくれるアンジェリークにいつしか心を開いていて。いつしか、本音を言い
合える友人になっていたと言うのに。

 フゥッ…と大きく溜め息を吐いたロザリアの瞳はどこか寂しげであった。

 そして、バレンタインデー当日。ロザリアはこっそりと占いの館に来ていた。アンジェリークと仲のいい守護聖を調べる
ためだ。

「あら、いらっしゃい」
 にこやかに迎えてくれる占い師のサラ。今日はいつもにもまして、幸福のオーラを放っている。王立研究院のパスハと
ラブラブで有名なのだ。たぶん、今日も約束をしているのだろう。

「あの…占いをお願いしたいのですが」
「ええ。任せて」
 水晶球の前に移動する。すると…甘い香りがすることに気づく。
「……何か甘い香りがしません?」
「ああ…これのことかしら?」
 そう言いながら、サラは可愛らしくラッピングされた箱を取り出す。
「さっき、アンジェリークが持ってきてくれたの。パスハと一緒に食べてくれって」
「はぁ?」
「バレンタインデーだからって。可愛いわね、あの子」
 クスクスと笑うサラに毒気を抜かれてしまう。
(…どういうことかしら? パスハさんには義理チョコかしらね)
 気を使って、サラに手渡したのかも知れない。そう考えると、埒があく。
 とりあえず、占いをお願いして、ロザリアはアンジェリークと親密度の高い守護聖を調べ上げると、礼を言ってから、占いの
館を後にした。

(……どなたでもないようね)
 とりあえず、調べ上げた守護聖たちには何の変化も見られない。どこか、他の思想だったり、浮き浮きしていたのは気に
なるが。肝心のアンジェリークがどこにもいないのだ。

(無駄足だったのかしら……)
 もしかしたら、もうとっくに告白などしていて。ロザリアの育成がきちんと終わるまではライバルとして、そこにいるのかも知れ
ない。そう考えると、だんだんと思考が暗くなってゆく。とぼとぼと特別寮にロザリアは戻っていった。

「ただいま…ばぁや……」
「お帰りなさい、ロザリア!」
「え……?」
 鈴の音が転がるような声で迎え入れてくれたのは探していたはずのアンジェリーク。
「お帰りなさいませ。お嬢様。アンジェリークさんはずっとお待ちでしたよ」
「そんなことないですよ。ばぁやさん」
 コロコロと笑っている少女をロザリアは凝視する。
「私を待っていたって……」
「うん。朝に来た時はいなかったから。午後にまた来たの」
「そ…そう……」
 たぶん、入れ違いになったのでしょうね…とばぁやが言う言葉もどこか遠く聞こえてくる。この時間に来る…と言うことは、
想いが伝わって、その後の相談なのかも知れない。そんなロザリアに対して、アンジェリークは笑顔のまま。

「あのね…ロザリア。これ、もらってね」
 そう言って、アンジェリークが差し出したのはサラのところで見たようなラッピングされた箱。
「これ…は……?」
「今日はバレンタインだから。大好きな人に大好きって気持ちを伝える日でしょう?」
「大好きな人って…私も?」
「え、違うの? 私、ロザリアのこと、大事な親友だと思っているわ。だから、朝一番に渡したかったのに。いなかったから、守護聖
様やサラさんやディア様のところに先に行ってきたの。好きって気持ちは恋愛感情の好きだけじゃないでしょ?」

 屈託などまったくないその言葉に自分の行動の空回りがおかしくて、情けなくなってくる。
「もしかしたら…迷惑だった?」
 お菓子業界の陰謀とまで言っていた相手にこんなことをするのは迷惑なのか…と微かに瞳を曇らせるアンジェリーク。
「そんなことはないわ……。まさか、私にこういうことをしてくれるなんて思わなかったから……」
 微かに照れくさそうな声。けれど、どこか嬉しそうな声。
「ばぁや。お茶を入れてちょうだい。あと…このケーキも切ってちょうだい」
「はい。承知いたしました」
 クスクス笑いながら、ロザリアのばぁやは言われた通りに行動する。今までこんなふうに同年代の友達と接するロザリアを見る
のは初めてで。いい傾向だと一人内心でうなずいている。

「あんたもつきあいなさいよ」
「うん。大好きよ。ロザリア」
「……私もアンタのことを気に入っているわ」
 最後のほうは照れくささのためか、どこか遠い声。だが、それでも、アンジェリークの耳には届いていて。嬉しそうに天使は
微笑んだ。


 そして、バレンタイン後、アンジェリークを誘おうとする守護聖たちに対して、ロザリアのガードはさらに固くなったことは言う
までもない。

おかしいなァ……。リモ―ジュハーレム書くつもりが、何故、ロザ×リモに……。

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