Sunflower
宮殿内のはずれにある向日葵畑。太陽に向けて、誇らしげに咲く情熱の花。夏の空の下、精一杯の輝き放つ花を見上げる
少女の後ろ姿にアリオスはため息をついた。少女はこの宇宙の女王と言う至高の存在。宮殿内とは言え、共も付けずに一人
出歩くのは無防備すぎる。
「コラ、この不良娘。執務室を抜け出して何やってる」
不意に背後から帰ってきた言葉にアンジェリークはきょとんとした瞳で振り返る。
「あら、見つかっちゃった……」
「見つかっちゃったじゃないだろうが……。何処の世界に執務室を抜け出す女王がいる」
「……ここに」
そう言って、自分自身を指差す少女に一瞬、殴りたくなる衝動を感じたアリオスに罪はない。しかも、少女は窓から手ごろな
枝に飛び移って、外に出たのだから。
「窓から抜け出す女王もいねぇよなぁ……」
「あら、いるわよ。陛下直伝だもん。陛下もよくロザリア様やジュリアス様の目を盗んで外に出る時にこの手を使っていたんです
って」
「……」
少女の言う陛下とは、彼女の故郷である宇宙の金の髪の女王である。
(あの女……)
天使の名のつく少女はどこか奔放でないといけない法則でもあるのだろうか…つい、そんなことを考えてしまう。それと同時に、
彼女の周囲の人間に妙に同情してしまう。
「でも、抜け出してごめんなさい。仕事が一段落ついたし。向日葵も咲き頃だし。ちょっとお休みしたかったの」
軽く肩を竦めて、悪戯っぽく笑うながら、本音を言う少女を叱るほど彼も野暮ではない。部屋の中ばかりにいてもつまらないと
言うのは、彼も同じ。女王補佐官であるレイチェルが聞けば、お説教は免れないだろうけど。
「この向日葵の種、マルセル様にいただいたの。マルセルさまが育てた向日葵の種なんですって」
「ああ、これで時給自足してんだな」
「何を」
「あの鳥の餌」
「ちょっと違うと思うけど……」
チュピのことを差していることはわかる。だが、それはないだろうと思う。
「あ、あのね。向日葵って太陽神に恋をした精霊が姿を変えたものなんだって」
こう言う時は話を逸らすに限る。いつの時代でも女の子はロマンチストなのだ。
「結局、太陽神は振り向くことなくて…それでも、見つめつづけて、とうとう向日葵になったんだって……。だから、今でも、太陽を
見つめて……」
「そんだけやって、振り向いてもらえなくても、まだ見てるってわけか……」
「だから、情熱の花なんだよね……」
ひたすら太陽を見つめつづけ、夏の間咲き誇る。太陽が振り返らなくても……。そして、思いを種子に託し、次の世代につなげ
てゆく……。いつまでも、見つめつづける、そんな花。
「じゃあ、俺は何になればいい?」
「え?」
不意に抱きしめられて、耳元に囁かれる言葉にアンジェリークはきょとんとする。
「太陽神に恋をした精霊が花になるんなら、天使に恋した男は何になればいい?」
「あ……」
途端に耳まで真っ赤になる少女の耳に、クスクスと忍び笑いが聞こえてくる。それがなんだか悔しくて。
「何にもならなくていいわ」
「んだよ。随分、つれねぇな」
「だって」
ギュッと抱きしめ返される感覚に少しばかりアリオスが戸惑う。
「私だって、あなたを見つめているから。だから、何にもならなくてもいいの」
そう告げながらも、恥ずかしいのか、アリオスの肩に顔を伏せてしまっている。それを強引に自分に向けさせて、少女にしか
見せない極上の笑みを見せて、青年はそっと囁く。
「じゃあ、このままキスでもするか」
「……馬鹿」
それは勝気な少女の照れ隠しであることを青年は知っているから。
「言ってろ、馬鹿」
それ以上は言葉にすることなく、唇に載せて。二人は口づけを交し合う。夏の中、一番に咲き誇る花よりも、深い思いを交し
合いながら……。
アリオス限定キリ番を取られたmaoさまのリクエスト、「レクイエム以降の二人の話」です。誰か、こいつらを止めてやってください……。