「Sugar」
枕を抱えて、アンジェリークはベッドの上でぷいっとアリオスに背を向けた。
「おい、すねるなよ」
アリオスがそんなアンジェリークを背中から抱きしめた。
「ほら、こっち向けって」
そう言うと、そっと耳たぶにキスをする。腕に、アンジェリークの身体がぴく りと反応したのが伝わってきた。なのに、
「……しらない」
アンジェリークの口からは、小さな否定の言葉がこぼれた。
「アリオスなんて、しらない!」
ぽすっと枕に顔を埋めて、アンジェリークが声を潤ませるのに、アリオスは苦 笑しながらその栗色の髪にキスをした。
それは、いつもの他愛ない会話の中でのこと。
『まあ、色気だけはどうやったって、な』
アリオスのその言葉に、アンジェリークがぷっとほほをふくらませた。
アリオスとしては、だけれどお前がかわいいよ、と言いたかっただけなのに、 もともと気持ちを口にすることが苦手な
アリオスの言葉は、ときにアンジェリー クとの間にすれ違いをうむ。
そして、その夜、アリオスの部屋へやってきたアンジェリークは、淡い水色の ベビードールに、同系色のストッキング、
それにピュアホワイトのランジェリー とガーターをつけてベッドの上のアリオスの側へ来ると、淡いピンクのリップを 塗った
唇で、抱いて、と震える声で小さく呟いたのだ。
アリオスには、そんなアンジェリークの行動がレイチェルの入れ知恵だという のはすぐわかった。
はじらいながら白い肌をピンクに染めたアンジェリークのその姿に、アリオス は自分の言葉を否定すらした。けれど、
それ以上にそのアンジェリークの必死さ が愛おしくって、思わず、くっと笑ってしまったのだ。
そうして傷つけてしまった恋人は、アリオスの腕の中で微かに身体を震わせて いる。
そのアンジェリークの肩先に唇を落とすとアンジェリークがまたぴくりと反応 する。知りつくしているアンジェリークの弱い
部分を利用して、アリオスはあい ていた片手でアンジェリークのほほをつつむと、強引に振り向かせた。
大きな青緑色の瞳が濡れたまま、ただ悲しいと、アリオスに訴えていた。
自分の小さな言葉を気にして、傷ついて、泣いてしまうような優しい存在を、 アリオスはじっと見つめた。
「わるかった。謝るから、許してくれ」
アリオスは謝罪を、アンジェリークの唇にそっと触れさせると、くるむように 腕の中に閉じこめる。
「泣かないでくれ、俺を怖がらせないでくれ」
甘い甘い存在。柔らかで、優しい存在。アリオスがはじめて本当に手に入れた 、天使の名を持つ愛しい少女。
アンジェリークが自分のことに反応するすべてが愛おしくて、アリオスはそれ を自分の不用意な行為でなくしてしまうかも
しれない可能性に、この頃は臆病に までなってしまった。
「アンジェリーク、俺を拒まないでくれ」
アリオスのささやきに、そっとアンジェリークの手が背中に回された。
「アリオスなんか……しらない」
否定の言葉でもその声をきけただけで、自然と笑みが浮かぶ自分に、アリオス わざとくしゃっとその表情を崩した。
「そんなこと言うな」
「アリオスなんて、だいきらい」
「好きだって言っただろ?」
「そんなの……しらない」
「アンジェリーク……愛してる」
「……ずる」
い、と続けられる言葉を、キスで奪う。言葉とはうらはらに、アンジェリーク
の手がぎゅっとアリオスの背中にしがみついてくるのを確かめて、アリオスもア ンジェリークを強く抱きしめる。
「もう、いつもそうやって、いじわる……ばっかり……」
潤んだ瞳で恨めしげに見上げるアンジェリークに、形だけ余裕の笑みを見せて 、アリオスはベビードールに透ける
白い胸元にそっとキスをおとす。
離したくない、愛しい存在。そのあまやかな身体を抱きしめて、子供みたいに わがままになる自分自身に、アリオスは
心の中で苦笑する。
愛してる、誰よりも……アンジェリーク、お前だけを、愛してる。
fin
“Angel Sphere”のあおい様からのメールに添えられていたNina様が書かれた創作です。なんでも、私の創作に触発
されて書かれたとか…。うう、もったいないお言葉だし、分不相応です。でもでも、あおい様、Nina様、本当にありがとうございました。