Spiral
どこまでも続くかと思わせる、螺旋階段。降りてゆく。ぐるぐると。闇を思わせる漆黒の髪と金と緑の瞳を持った青年はずっと
降りて行く。一段一段降りてゆくうちに少しずつ壊れてゆく。それはモラルであり、理性であり、背負うものすべて。どこまでが
正しくてどこまでが過ちなのか、曖昧にすらなってゆく。
それは果てのない迷宮のように。だが、この迷宮は永久のものではない。ただ一人の人間の意思により作られたもの。
ようやく螺旋階段を降りると、重苦しく古めかしい扉。頑丈そうな外見だが、鍵はかかっていない。青年は躊躇いもなく、扉を
開ける。
重苦しい音と共に開かれてゆくドア。そこから広がる空間。その中心にしどけなく座る少女の姿。手足には幾重もの長い銀の
鎖の枷。
「何故、逃げぬ…いや、この迷宮を出ぬ?」
そう少女に言葉を向けると、青年はシャランと音を立てて、鎖を手にとる。
「我を憎めば、この鎖は外れる。さぁ、憎むがいい」
そう告げて、少女に顎を捕らえる。
「我は皇帝。レヴィアス・ラグナ・アルヴィース。それ以外の何者でもない」
そう告げる瞳はどこか悲しげであることに、彼は気づいていない。だからこそ、少女の心を捕らえて離さない事も。
「やめて、貴方を憎むなんて……」
少女が涙を流すたびに鎖はまた少女を絡めとる。
「愚かな女だ……」
その言葉とは裏腹に口づけは優しくて。それが一層少女を惑わせるのだ。
ガタン! 強引に扉が開く。その音にびくりと少女は身体を震わせる。銀色の髪に鮮やかなグリーンの瞳。それ以外は漆黒の
髪の青年と何ら変わらぬ姿。
「何やってんだよ、お前は……」
どこかきつい視線と口調。虚ろな瞳で自分を見つめる少女に青年はため息をつく。そんな顔をさせたのは紛れもなく、自分たち
なのだから。
「そいつの言うとおり、俺を、そいつを憎めばいいんだ。まぁ、そいつは偽善者にすぎないがな……」
自嘲するように言うと、少女のもとに膝をつく。
「愛した女のため…と言いながら、ここで迷うお前を煽って、自分をさらに悲劇に落とそうとする」
そう告げると、強引に少女を自分の方に引き寄せる。
「あ、アリオス?!」
そのまま、レヴィアスに見せ付けるように口づける。レヴィアスとは違う、強引で手馴れた口づけ。
どうすれば少女が感じるのか知り尽くしているかのように。
「ん……」
すっかりと弛緩した少女の身体はアリオスの腕に支えられる。
「そんな瞳で見て、どうするんだよ。偽善者のくせして……」
「偽りの者に言われる筋合いはない。お前もまた、我と同じ。我が偽善者だと言うのなら、お前もそうだろう……」
「だが、俺は“レヴィアス”ではなく、アリオスだ。こいつの前ではな……」
視線がぶつかり合う音が聞こえてくる、そんな気がした。合わせ鏡のように決して交わることのない2人。だが、それでも少女に
とっては……。
[やめて……」
かすれるような少女の言葉。零れ落ちる涙。
[アンジェリーク]
声が重なる。同じ声。だが、違う声。
「私にとって貴方は、貴方たちはただ一人の“貴方”でしかないもの。どちらの貴方も私にとってはたった一人の貴方だわ……」
アリオスの腕から離れる。シャラン…銀の鎖に絡まれた手を2人に差し伸べる。
[貴方たちだって、見えない鎖に縛られている。どうしたら、貴方たちを救えるの? 私に、何が出来るの? お願い、教えて……」
天使の瞳から涙が零れ落ちる。その思いが真実であることを如実に表わすくらいに。
「貴方たちを愛しているの、こんなところに縛られるくらいに……。私にとってのかけがえのない“貴方”だから……」
シャラン…新たな鎖が再び少女を絡めとる。だが、囚われの天使はそれでも思いをぶつけようとする。
[愚かな女だ……」
だが、そう告げたレヴィアスの表情はどこか泣きそうで。
「ったく、お前って奴は……」
困ったような口調とは裏腹に、アリオスの表情は優しくて。
[我の天使よ……」
「だから、目が離せないんだよ……」
アンジェリークを見つめる視線の優しさはどちらも変わらない。彼らにとってのたった一人の天使。
忘れられぬ少女の面影を重ねてみていたはずが、いつのまにか囚われて。だから、殺して欲しかった。そのことで、解放された
かったのかもしれない。重すぎる過去の呪縛から……。
偽りの姿のはずだった。安心させる為に偽って、仲間になったのだ。だが、いつしかこの少女に惹かれていた。少女が自分の前
だけでは年相応の顔を見せるように、彼自身も少女と接している時はありのままの、自分がそうでありたかった顔を見せていた。
ある意味、どちらも彼自身なのだ。ただ、少女が見つめるのはあくまで共に旅した剣士の姿だと思っていたから。そして、それを
知るのが怖かった。だから、一人であった彼らはこの世界で2人として存在している。だが、天使にとっての“貴方”と言う存在が、
紛れもなく、自分たちであるのなら……。
「愛している、アンジェリーク」
再び重なる声。二人で包み込むように泣きじゃくる天使を抱きしめる。
シャラン…。鎖が外されてゆく。
「だから、早く我の元に来い。すべてを終わらせる為に……」
優しく頬に口付けられる。
[お前が進まなきゃ、俺たちはいつまでたってもこのままだ……」
そっと鎖の痕に舌が這わされる。その感触に天使の体がビクンと跳ねる。その反応を二人が見逃すはずもなくて。
[愛している」
「ただ一人のおまえだけだ……」
いつしか鎖はすべて外されていて。少女の身体は床に横たえられる。
[ゃん……」
触れるたびに跳ねあがるその反応をもっと見たくて、天使の身体に余すところなく触れてゆく。確かに自分が触れたという証が
欲しくて、少女の身体にいくつもの紅い花を落としてゆく。
[やだ……」
微かな少女の抵抗の言葉は唇でふさがれて。いつしか、何も言えなくなるまでに染め上げられてゆく。彼ら自身を少女に刻み
込む為に……。
「んぅ、ぁ……」
彼ら自身をその身体に受けとめて、少女は涙をこぼす。二人の愛を受けて、身も心も疲れ果てている。だが、それでも、少女は
2人に手を差し伸べる。
[私も、愛しているわ……」
その言葉と慈愛に満ちた天使の眼差しと共に……。
螺旋の迷宮に光が射しこんでくる。もう、迷宮など必要としない少女。
[これが本来のこの娘の心の世界か……」
光に溢れ、明るく光輝く世界。愛することで迷った少女は愛し愛されることで迷いを解き放った。もう、あの螺旋の迷宮を必要と
しないのだ。
「あいつの治める宇宙もこんな感じなんだろうな……」
「ああ、そうだ……。」
二人の視線は愛され尽くして、眠りに落ちる少女に注がれる。
[早く我の元に来い、アンジェリーク。すべてを終わらせるのだ……」
[すべてが終われば、俺は、俺たちはお前の元に還る。お前にとっての“貴方”として……」
ふと視線が合う。互いに迷いのない眼差し。
「さぁ、いくか」
[言われるまでもねぇよ]
愛しい少女に口づけを落として、二人は螺旋階段を上ってゆく。この螺旋階段を登り終えれば、最後の幕が上がる。そして、
すべてが終わる。
そうして、彼らは還るのだ。ただ一人の天使の元に。誰よりも愛した少女の元に。
夜明けは近づこうとしていた。二人の心に、少女の心に……
これは同人誌で使うはすの話でした。でも、ちょっと内容がまずいかな…と思い、同人誌では一人ずつにしました(笑)
同人誌を持ってる方は読み比べるのも面白いかも。