SWEET KISS


「さぁ、出来たわ」
 まだほかほかと湯気を立てている鉄板を、オーブンから取り出すと、アンジェリークはいそいそと上に並んだクッキーをお皿に流しこんだ。
 辺り一面に満ちる、バニラエッセンスの香り。彼女はにっこり微笑みながら、 クッキーの一つを手に取った。
「うん、美味しい♪」
「……どれ」
 アンジェリークの横からにゅっと手が伸びる。
「まぁまぁってとこか」
 くぐもった声に振りかえると、少女の傍に男が一人立っていた。
「アリオス! つまみ食いなんて、お行儀悪いわよ!」
「固い事言うなって……」
 言っているうちに一つ、また一つとお皿の上からカケラが消えて行く。
「ダメよ! これは明日レイチェルの家に持って行くんだから!」
 このままだと総て彼の胃袋に納まるのは明白。そう看破したアンジェリークは 、伸ばされる手を牽制しつつ、胸元にお皿を抱え込んだ。
「レイチェルが風邪を引いたのよ。そのお見舞いなんだから」
 折角上手く焼けたと言うのに、全部食べられては堪らない。彼のためのもので はないのだ。
「オレのは?」
「……知らないっ!」
 ぷんっと、横を向く。本当は彼の分も作るつもりだったのだけど、そんな気は 失せてしまった。
「すげー、美味かったからさ……」
 気まずそうな声音に、横目で相手を見やると、声と同じくらい困った表情のア リオスが目に入る。
「ホントに反省してる?」
「してるしてる」
 こくこく。頷くアリオスに、やれやれと肩を竦める。結局自分は彼に甘いのだ

 きっとそれは初めから。出会った時から。
 そして月日を重ねて。色々なことを知って。知り合って。
 やがてお互い、知らない事がなくなった時、自分たちは一体どうなるのだろう

「……あれ、でもアリオス。あなた、甘いものは苦手じゃなかった?」
 不意にそんな事を思い出したアンジェリークは、ボゥルにバターを溶かしなが ら、首を傾げた。
「あぁ、そう言えばそうだな」
 彼女の傍で、粉をふるいに掛けながらアリオス。
「多分、甘いもんを食べ過ぎて、慣れちまったんだろ」
「甘いもの?」
 それは一体なんなのかと、視線で問い掛ける少女に、アリオスは悪戯っぽく瞳 を瞬かせると、すっと顔を寄せた。
「こ・れ」
 耳元に掠めるような声と共に、触れる、羽根のような感触。
 瞬間、その意味に思い当たったアンジェリークの足元で、盛大な金物の音と、 次いで彼女の悲鳴が響き渡った。
「アリオスの、馬鹿ぁーっ!!」
 その後、天使を怒らせた罪人は、当分の間甘いもの断ちを余儀なくされたとか

私の書く作品の二人からイメージして書いてくれたの〜。どちらかというと、“「二人」に帰ろう”の二人に近いですね。ありがとう、
いつもいつも……。