例えばこんな贈り物


 最近、アンジェリーク様子がおかしい。書類を片手にアリオスは溜め息を吐く。
 この宇宙で至高の存在、女王。それが彼の愛しい恋人の立場。それゆえ、多忙を極める立場だが、いつもにまして、彼女は
働いているように見える。補佐官や自分の存在があっても、宇宙の意志を感じ取り、必要な力を与えるのは彼女にしかできない
とは判ってはいるものの、あまり無理をさせたくないと言うのも彼の本音。

「あんまり、無理するなよ」
 過去はともかくとして、今、アリオスはこの宇宙を支える天使のためだけに存在している。それが彼の存在理由。
「……ん。でも、これを終わらせないと」
 にっこりと笑って、彼の言葉を受け流してしまう。あまり頑張られると、今度はプライベートな時間を削り取られるのだ。それが
多少の不満でなくはない。

「おい、あいつにあんまり無理させるなよ」
…と、女王補佐官であるレイチェルに声を書けたところで、冷ややかな言葉が帰ってくるだけ。
「……あの子が自分で決めた量だもの。ワタシが言って聞くなら、言ってるよ。そんなに無理が気になるなら…あなたが夜に無理
させなきゃイイんじゃないの?」

 言いたいことだけ言うと、すたすたと立ち去ってしまうのだ。冗談ではない。最近の彼の天使に大抵かわされているのだ。
『ごめんね…来週までに急がなきゃならない書類があるの……』
 執務室にある仮眠室(それでも寝泊まりできる設備は整っている)に泊まり込むこともあって。彼女がこの宇宙を大事に思って
いるのもわかっているから。その瞳を曇らせることも彼にはできなくて。一人で過ごす夜の彼の酒の量は…かなりのものだった。


 とにもかくにも、二週間ほどが過ぎて。今日もまた…長い夜を一人で過ごすことになるのか…と、酒瓶に手を伸ばそうとすると
……。

 コンコン。遠慮がちのノックの音。夜も遅い、こんな時間に訪ねてくるのは彼の記憶には一人しかいない。
「入れよ」
 ドアの方に声をかけると、遠慮がちにアンジェリークが入ってくる。手には小さなバスケットを持っていて。
「あの…寝るところだった?」
「いや…飲もうとしていたところだ。どうした?」
「うん……」
 チラリ…とアンジェリークの視線が時計に向けられる。
「急ぎの仕事が終わらないのか? 手伝ってくれって言うのなら、報酬は高いぜ?」
 冗談交じりに言うと、アンジェリークは首を振る。
「ち、違うわよ。もう…片づけちゃったもの。あなたに会いに来たんじゃない」
「ほう…大胆になったもんだな」
「な、何がよ」
 にやにや笑うアリオスに嫌な予感がして、あとずさる。だが、すぐにドアを背にするように、アリオスに追いつめられる。
「夜這いに来たんだろ?」
「〜〜」
 軽い口調で、とんでもないことを言われてアンジェリークはじたばたと暴れ出す。だが、すぐにその肩は押さえつけられて。
「あ…あのね……」
 何か言おうとした唇はすぐに塞がれて。置き時計の針が時を刻む音だけが部屋に響く。そして…時計の針が一日の終わりを
告げ、新しい日を刻みはじめる。

「……もう」
「ごちそうさん」
「こんなもの…食べさせに来たんじゃないのに……」
 そういうと、アンジェリークは手に持っていたバスケットを差し出す。
「何だよ……」
「あなたのお誕生日だから、お祝いしようと持ってきたの。ほら、もう今日はあなたの誕生日よ」
「そうだったか?」
「自分の誕生日くらい、覚えててよ……」
 差し出されたバスケットの中にはシャンパンと二つのグラス。
「結構いい酒だな」
「そうよ…用意したもの。飲みましょ」
「ああ」
 シャンパンを開けて、グラスに注ぐ。香りが部屋に広がる。
「誕生日おめでとう、アリオス」
「ああ」
 グラスがなる音。
「あのね…プレゼントなんだけど……。もらってくれる?」
「ものにもよるが……。なんて…な。おまえが用意してくれたんなら、それでいいさ」
「ん……。あのね……」
 アンジェリークはそっとアリオスに近づく。アリオスの手から、グラスを取り上げ、その手の平に唇を落とす。
「アンジェ……?」
「今日から…三日間ね。お休みを取ったから……。三日間だけ、私はあなたのアンジェリークだから……」
「って…おい……?」
 まったく見えてこない話に、アリオスは戸惑う。そんなことをあの女王補佐官が許すはずもないだろうに。
「レイチェルとアルフォンシアにはずいぶん我儘言ったけど。でも、普通の女の子として私があなたにしてあげられることなんて、
そんなにないもの。私は…この宇宙のものだから……。でも、あなただけの私でいたいって思うのも本当のことだから……」

 そう言って、アンジェリークはアリオスを見上げる。
「いらないんなら…言ってね。部屋に帰るから……」
 上目遣いは反則だ…とアリオスは思う。いらないわけがない。そのことをこの少女は気づいていないのか。だが、ふとアリオスは
あることに気づく。

「なぁ…おまえがここんところ忙しかったのは…このためか?」
「う…うん……。そりゃ、やることはやらないと。スケジュールの調整は大変だったけど……」
「なるほど……」
 いかにもまじめな少女らしい。ならば、この好意は受け取るしかないだろう。
「判った。受け取ってやるよ」
 そういうや否や、アリオスはアンジェリークを抱き上げる。
「え…アリオス?」
「このために、ずいぶんおあずけをくったしな。ま、三日間、よろしくな」
「きゃっっ」
 ベッドに寝かされて、覆い被されて。まさかいきなり…とは考えていなかったのだろう。すっかりパニックに陥っている。
「そんな顔すんなよ……。俺は、寂しかったんだぜ」
 からかうような口調と共にチュッ…と音を立てて、頬に口づける。
「もう……」
 口ではあきれたようなそぶり。だが、アンジェリークは彼に背に腕を回す。彼の温もりがないのが寂しくなかったと言えば、嘘に
なるから。

「大事にもらってよね……」
「わかってるさ……」
 口づけはとても甘くて。ふれあう肌はとても熱くて。シャンパンの酔いではない、昂揚感に二人、身を任て…夜は更けてゆく……。

 誕生日はまだ…始まったばかり。そして、贈られたばかりのプレゼントもまだ封を開かれたばかり。これからが、二人の休暇の
始まり…となる。ケーキよりも甘い…時間の……。


アリオスのバースデー創作第二段、もしくは、馬鹿ップルバージョン。この壁紙って、裏用に使うんだけど。ま、二人の夜を記念して(爆)
やっぱ、プレゼントと言えは、これでしょう。うん。

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