お薬の効能


 それは栗色の髪の天使が、まだその翼に目覚めていない頃の話。
 クシュン! 可愛らしいクシャミが庭園に響く。
「なんや、風邪かいな、メルちゃん」
「ん、そうみたい」
そう言って、鼻をくしゅくしゅするメルにチャーリーは何やらゴソゴソと商品の入った箱を漁る。
「ほら、みつかった」
 そう言って、チャーリーは小箱をさしだす。
「お薬〜?」
途端に不満そうな顔になるメルに対し、チャーリーは神妙な顔をする。
「あかんで、ちゃんと飲まな。風邪は万病の元や。メルちゃんのお役目も果たせんようなるで? それに、女王候補の
二人に移ったら、困るやろ?」
「う〜」
メルとて自分の責任は理解している。しぶしぶ、小箱を受け取り、錠剤を取り出す。
「あ、一応、説明読んどき。アレルギーあったら、困るし」
「はぁい」
可愛らしく返事をすると、メルは説明書に目を通す。
「売ってるお薬って、色々気をつけないといけないんだね」
「あれ、メルちゃん、普段、どんな薬飲んでんの?」
「いつもはね、薬師さんが薬草を煎じてくれてるの」 思わず、納得してしまう。民間療法と言えども、侮れないのだ。
「でも、この意味がわからないの」
「どれ?」
「うん、ここなんだけど……」
そう言って、メルが指差した説明に書かれていたのは……。
「『効き目が強くなりますので、アルコールと一緒に服用しないで下さい』…って、これが、か?」
「だって、効き目が強くなるんなら、いいんじゃないの?」
 極めて、素朴な疑問なのだが、実はそういうことではない。効き目が強くなるということは体に与える影響も大きく
なるということ。当然、副作用も大きくなる。
「あのな、メルちゃん……」
分かりやすくチャーリーが説明しようと、思考を巡らせると……。
「簡単なことだよ、メル。僕が説明してあげよう」
「あ、セイランさん〜」
突然のセイランの出現にチャーリーは内心で溜め息つく。こういう時の彼の説明はこれまでの経験上、ろくなものが
ないのだから。
「いいかい? アルコールで薬の効果が強くなると、ちょっとの薬で済んでしまうだろ? そしたら、製薬会社が儲から
なくなるんだ」
「……」
 案の上…である。だが、根が思い切り素直すぎる子供は単純に信じてしまう。
「え〜。ひどい〜」
「でも、仕方ないんだよ。薬を開発するのにはたくさんのお金がかかるし。それを回収しなきゃいけないからね。彼らも
それでご飯を食べてるわけだから」
「そうなんだ……」
 うんうんと納得する。なぜ、ここまでこの子供は素直なのか…思わず、チャーリーが眩暈がしたのは無理もない
話である。
「あ、あのなぁ、セイランさん、メルちゃん……」
 ここはどんな皮肉が返ってきてもいいから、真実を伝えようとチャーリーが決意するにもかかわらず、セイランは
しれっとした顔。
「君も商売だから仕方ないんだろうけど、純真な子供に真実は伝えなきゃね」
と、言い切ってしまうと、すたすたと去っていってしまう。
「セイランさん、ありがとう〜」
 声をかけるメルに振り返らず、手を振るだけの後姿。
(俺の口からやったら、伝わらん。エルンストさんに頼も……)
 エリート研究員のあきれた顔が目に浮かびはするが、彼もメルには弱いはず。やはり真実はきちんと伝えた方が
いいのだ。
 そんなチャーリーの苦悩をよそに、メルはますますセイランに尊敬のまなざしをむける。そして、セイランは今日も
わが道を歩くのであった。



メルの疑問は私の疑問だったりしました。だって、そう思わない? でも、セイランみたいにうそをつく人は私の
周りにはいませんでした(笑)

<聖地お笑い劇場>