One of……

 きっかけは偶然のこと。もしも、その偶然がなかったら、出会っていなかった。
 ホストと女子校生の出会いなんて、そうそうない。遊び慣れてるならまだしも、少女は名門と呼ばれる国立の女子校に
通学しているのだから。
「運命って、そう考えたら不思議よね」
「何が、だ?」
「私とあなたが出会ったきっかけのことよ」
 そう言いながら、アンジェリークは目の前のミルフィーユを口にする。
「そういや、おまえ、あの時それ食ってたよな」
「誰かさんのとばっちりで半分近くはおしゃかになったけど?」
 皮肉をこめたアンジェリークの言葉をシニカルな笑みで受け流す。事実なのだから、反論のしようもない。
 このティールームで出会って一年近く経つ。あの時は席が込んでいて。待ち合わせの相手が急用で来られなくなり、
アンジェリークが一人で座っていたところに相席で一緒に座ったのがアリオスだった。アリオスのちょっとした仕事上の
トラブルに巻き込まれ、食べていたミルフィーユごと水浸しにされた。それが二人の出会いのきっかけ。人生、どこにどう
転ぶのか判ったものではない。ある意味、教訓だ。
「今日は泊まってけるんだろ?」
 一緒に朝を迎えることが多くなった。その度にレイチェルにアリバイを頼むこともしばしばだ。
「うーん。明日は模試があるから……。お金払ってるから行かないと、ね……」
「エスカレーター式だろ? お前の学校」
「甘いわね。内部進学でも一定の成績を取らなきゃ辛いのよ。外部から入ってきた子に差をつけられたら悔しいもの。
それに勉強ってのは自分に肥やしをやるようなものでしょ? 詰め込みはともかく、知識はあるに越した方がいいわ。
自分を磨くためにもね」
 アンジェリークらしい考えだ、と思ってしまう。確かに義務でやる勉強よりは効果がある。自分の意志でやる事のほうが
効果的である。
「じゃぁ、お前にもう一つ選択肢をやるよ」
「え?」
「手を出せ」
 言われるままに手を出すと、手の平の上にベルベットの箱が載せられる。
「開けてみろよ……」
「う、うん……」
 言われるままに箱を開けると、シンプルなプラチナの指輪。アンジェリークはアリオスを見上げる。
「これって……?」
「結婚ってのも、選択肢の一つだろ?」
「私とアリオス…が?」
 きょとんと聞き返すアンジェリークに脱力する。どうして、この少女は肝心なときに鈍いのだろう。思いを伝え合うまでも
そうだったのだが。
「おまえなぁ……。でなきゃ、何で俺がおまえに指輪を渡すんだよ?」
「だ、だって、アリオス、お仕事あるし。結婚していいの?」
 ホストというお仕事をしている以上、既婚…というのはまずい気がする。
「あれを一生の仕事にはしねぇよ。まぁ、いい。ついて来いよ」
 そう言うと、アリオスはすたすたと歩き出してしまう。アンジェリークは慌ててついてゆく。しばらく歩くと、改装中と思しき
喫茶店の前でアリオスは立ち止まった。
「ここは……?」
「春になったら、この店を俺がやる。俺のコーヒーが上手いのは知ってるだろ?」
 モノトーンで統一された雰囲気はアリオスによく似合っている。
「アリオス、喫茶店のマスターになるの?」
「ああ。金が貯まったしな。ホストにも未練はねえし。夢ってほど大袈裟なもんじゃねえが自分の店は欲しかったからな」
「ふうん……」
 初めて知るアリオスの一面。まだまだ知らないことだらけだ。アンジェリークは軽く溜息をつく。
「どうした?」
「私、アリオスのこと、まだ知らないことばっかりだったんだなって思ったの」
「ク、バーカ」
 コツン、と頭を軽く叩く。
「な、何よ!」
「最初から全部知ってても、仕方ないだろ? 俺だってお前の全部を知るわけがねえし。これからまだ先は長いんだ。
少しずつ知っていけばいい」
「うん……」
 確かにアリオスの言葉通りで。反論の余地もない。
「で、選択肢の話の続きだ」
「え?!」
 唐突な話の切り替えについていけない。だが、アリオスは気にすることなく話を進める。
「喫茶店のマスターの嫁さんになるってのも、立派な選択肢の一つだろ?」
「それって……」
 アリオスと先程渡されたベルベットの小箱と見比べる。考えなくても答えはわかる。
「プロポーズ?」
「あたり」
 あまりにも突然で実感に乏しい。だが、少しずつアンジェリークの心に染み込んで来る。
「いらねぇんなら、返せよ?」
「いらないわけない!」
 大好きな人からのその言葉を喜ばないわけがない。ポスン、とアリオスの腕の中に飛び込む。
「返品は却下だぜ?」
「わかってるわ、そんなの」
 そう答えると、アンジェリークは悪戯っぽい笑顔でアリオスを見上げる。
「ねぇ、こういう選択肢もありよね?」
「何が、だ?」
 怪訝な色を顔に浮かべるアリオスにアンジェリークは明るく言ってのける。
「喫茶店のマスターのお嫁さんになって、お店のお手伝いする大学生になるの。これも立派な選択肢でしょ?」
 鮮やかな瞳で告げられたその言葉に最初は呆気に取られ、次に笑顔になる。
「随分と欲張りだな」
「こういうオンナは嫌い?」
 しおらしい口調とは裏腹に鮮やかに光る挑戦的な瞳。甘えるだけのオンナなら願い下げだが、アンジェリークは違う。
「いや、むしろ上出来だ」
「そう?」
 視線が絡むと、互いにクスクスと笑い合い、どちらからともなく口づける。

 アンジェリークが選んだ答えは二人の心の中に大切にしまわれている……。


45000番を踏まれた、沙羅様からのリクエストで、以前キリ番リクエストで書き、なおかつ同人誌で発表した「ホストのアリオスと
女子高生のアンジェ」です。コピー本を持ってない人にはとても不親切……。すみません……。

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