お迎え
「アリオスのバカ〜!」
家中に響き渡る声。何事か…とユージィンが様子を見に行くと、怒りに震えるアンジェリークと、それを楽しそうに見ている
アリオスの姿。
(ああ…やっぱり……)
普段は中のいい家族といった、二人の関係。だが、時々、アリオスがアンジェリークをからかって怒らせる。それが度を
過ぎると……。
「私、家出する!」
そう宣言してしまい、パタパタと二階の自分の部屋にかけてゆく。
「また…ですか?」
「ガキはからかうと楽しいからな」
しれっと笑うアリオスに、ユージィンはこの人もまだ子供なのでは…なとど、思ってしまうのであった。もちろん、口には
出さなかったけれど。
カインの弁護士事務所の応接間に、小さな鞄を持って、ちょこんと座る少女。もちろん、アンジェリークである。
「私、家出する!」
そう宣言するたびに、カインの事務所に駆け込んでくるのだ。
「ごめんね、カイン。邪魔なら、出て行くから……」
気を使って言う少女であるが、出ていけといえるはずがない。
「お気になさらずに。また…原因はあの方ですか?」
「…まぁね」
ぷぅ…と頬を膨らませる姿は愛らしく、年相応の少女そのまま。しっかりした普段の印象とは違った感じを見せる。
「何?」
「いえ…何でも……」
つい、笑みをこぼしてしまうカインにアンジェリークは不満そうな様子。何となく、からかいたくなるアリオスの気持ちが判ら
なくはないような気がする。何事にもまっすぐだから…つい、といった感じであろうか。
「じゃあ、私は仕事がありますから」
「ごめんね。カイン……」
部屋を出て行くカインに気遣うアンジェリーク。そして、カインと入れ代わりに事務員の女性が入ってくる。
「どうぞ」
駅前のケーキ店で売っているアンジェリークの一番好きなケーキを紅茶と共に出してくれる。
「あの…お構いなく……。私、迷惑かけてるし」
「いいんですよ。こんなに可愛いお客様ですしね」
笑いながら、女性は部屋を後にする。今度こそ、一人残されたアンジェリークは一つ溜め息を吐いて、ケーキを食べ始
める。カインが来る時に買ってきてくれるそれはとてもおいしいはずなのに、おいしいと思えなくて。
「アリオスのバカ……」
今日何度めかの言葉を言って、アンジェリークは紅茶を飲み干した。
部屋から戻ってきた女性はクスクスと笑っているのに、気づき、カインは怪訝そうな顔をする。
「どうかしたのか?」
「ええ…可愛いなって思ったんですよ。迎えに来るのがわかっているから、ここに来るんですよね」
「迎えに来るのがわかっている?」
聞き返すカインに事務員は頷く。
「だって…家出をして、誰かのところに駆け込むのなら、別に大人ばかりのここじゃなくても、友達のところでもいいはずです。
それをしないのは、アリオスさんが迎えに来やすいからでしょう?」
笑いながらも、きっぱりと言い切る。
「そういうものなのか?」
「そういうものですわ」
クスクスと笑いながら、事務員はカインのためにお茶を入れ始めた。
そして、時間は過ぎて、時計の針が九時も過ぎる頃……。事務所の前に、車が止まる音がする。しばらくすると……。
「よう、邪魔したな」
その言葉と共に事務所に入ってくるアリオス。すっかり慣れた動作でアンジェリークがいる応接間に向かう。
「ほら、帰るぞ」
そう言って、いつものようにアリオスが手をさしのべる。もちろん、アンジェリークが素直に頷くはずもなくて。
「いや、帰らない。家出したんだから」
プイ…と顔を背けてしまうが、それがポーズにしか過ぎないことは百も承知している。
「その話は家で聞いてやる」
そう言って、アンジェリークを抱きかかえ、鞄を手にしてしまう。
「やーん、アリオス、下ろしてよ〜」
「暴れるな。ほこりがたつ」
じたばた暴れるアンジェリークを抱えて、アリオスが応接間を出てくる。
「邪魔したな」
「いえ……。お気をつけて」
すたすたとアンジェリークを抱えて去って行くアリオスを見送ると、またもやクスクスと事務員が笑い出す。
「言った通りでしょ?」
「ああ…そうだな……」
なんだかんだといっても、結局は仲が良い二人なのだ。アンジェリークがアリオスを必要とするように、アリオスもまた
アンジェリークを必要としていて。時々、繰り広げられるこの喧嘩も、互いの存在を再確認するものでしかなくて。
「今度は二人分のケーキを買っておきますね」
「ああ、頼む……」
そう言い合うと、くすりとカインもまた、笑みをこぼすのであった。
アリオス限定キリ番9696版を踏まれた玻璃さまからのリクエスト。“「二人」に帰ろう”の外伝です。カイン、いい人ですよね……。
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