無邪気な鎖

 神鳥の宇宙の聖殿の中庭で金の髪の少女とゼフェルの姿を見掛けたユーイはためらいもなく二人に声を掛けた。覗き見する趣味は毛頭ないし、挨拶は人間関係の大事な基本だと祖父に言われて来たからだ。
「こんにちは、ゼフェル様!」
「げ……」
 声を掛けられた方のゼフェルはまずそうな顔をする。少女の方はにこにこと笑っているのが、対照的である。
「あ、俺、邪魔したか?」
 ゼフェルの態度にユーイは申し訳なさそうな顔をする。判っていてしているのではなく、あくまでも天然。毒気を抜かれるだけだ。
「別に!」
「なら、良かった。そちらの人はゼフェル様の恋人か? 可愛い人だな」
 あくまでも、ユーイは天然に聞いて来る。だから、ある意味、タチが悪い。まして、今、ゼフェルが一緒にいる相手が相手だ。
「あら、そう見える? 嬉しいわ」
「おめーは!」
 天然に匹敵するのは無邪気である。頭が痛いのは自分がそのどちらでもないことである。
「あー、ったく。正装じゃねえから気付かなかったんだろうけどよ、こいつは女王陛下だ!」
「あぁ、道理でどこかで見たことがあると思ったぞ」
「反応がそれかよ……」
 ガクッとゼフェルは肩を落とす。ランディの熱血にも疲れはするが、この天然ぶりにも、疲れはする。
「陛下はそういう格好も似合うんだな」
「ありがとう、嬉しいわ」
 ユーイの言葉に嬉しそうに笑う。ふんわりとしたフリルのワンピースはユーイが言うまでもなく彼女には似合っている。照れくさくて言えなかったものの、他人に言われたら、ゼフェルは複雑なものを感じる。天然と無邪気。それには罪がないと思いはしても。
「でも、こんな風に会ってるなんて仲がいいんだな」
「べ、別に、そういうんじゃ……」
 からかわれているわけではないことはわかっているが、こうもはきはきと言われると、居心地が悪い。
「ちがうのか? うちの陛下もようやく落ち着いて来たこともあって、よく誰かと中庭でいるのを見るぞ。あの二人と同じくらい優しい雰囲気がした」
「それって……」
 思い当たるのは、口の悪い銀髪の剣士。
「あいつら、幸せそうなんだな……」
「そうね……」
 何も知らないはずの第三者から見て、優しい雰囲気と言うことは幸福であるのだろう。彼らの恋の哀しい道程を知っているから、それに安堵する。
「だから、陛下たちもいいなって思った。俺も頑張らなきゃだな」
「あー、エンジュかよ」
「もちろんだ。エトワールの役目は一年だけだから。ずっと一緒にいられる方法がないかって考えるところだ」
「……」
 聞いているこちらが恥ずかしくなる。照れてくれるなりしたらいいのだが、彼にはそう言った躊躇いはないらしい。
「じゃあ、俺行くよ。邪魔して悪かったな」
「あら、もう?」
「うん。ランディ様が色々教えたいことがあるからって呼ばれてるから」
「彼はそういうところで張り切る人だものね〜」
 くすくすと笑う傍らの少女に対し、ゼフェルはケッと舌打ちをする。押し付けがましい部分があるのを気に入らないためだ。
「今度、お茶会をするからお招きするわ。エンジュと一緒に来てね」
「うん、楽しみにしてるぞ!」
 そう言うと、ユーイは軽やかな足取りで去ってしまった。残されたゼフェルと女王、アンジェリークは顔を見合わせて笑う。
「なんつーか、風っつーより、嵐だよな」
「でも、いい子だわ」
 そう言いながら、アンジェリークはさらにくすくすと笑い出す。
「何だよ」
「ちょっと羨ましかったから」
「はぁ?」
 いきなり何を言い出すのかという顔をするゼフェルにアンジェリークは悪戯っぽく笑う。
「ユーイが言ってた“ずっと一緒にいられる方法”って、あれなんだろうなぁって思って」
「“あれ”ってなんだよ?」
「あら、わからない?」
 そう言って、アンジェリークはますます笑う。
「わかんねーよ」
「プロポーズってこと♪」
「プ……」
 突拍子のない言葉にゼフェルは唖然とする。
「あら、役割が終わったら、エンジュは故郷に帰らなくちゃならないでしょ? ずっと一緒にいるにはそれしかないでしょ?」
「あいつ、ある意味、ランディ野郎よりもぶっ飛んでやがる……」
 本人に自覚がないのがまた何とも言えない。
「で、おめーは羨ましいのかよ?」
「どう思うの?」
「ったく……」
 甘えるように見上げて来る瞳。この瞳にはかなわないのだ。
「今は女王と守護聖じゃねえか……」
 ある意味、これは逃げの言葉、だ。案の上、アンジェリークの瞳は曇り出す。
「だ、だから! そうじゃなくなったら、そん時まで待ってやがれ!」
 照れくささもあり怒鳴りつけるように言ってしまう。だが、それはアンジェリークの機嫌を損ねるはずがない。
「うん……」
「うわっ!」
 ぎゅっと抱き付かれてしまう。ふんわりとした甘い香りだとか、少女特有柔らかさとかが直接伝わって来る。
「こ、こら! こんなところで!」
 慌てて離そうとするが、抱擁よりも甘い鎖がゼフェルを絡め取って行くのだ。
「ゼフェル、大好き♪」
「ったく……」
 無邪気に告げて来るから、抗えなくて。結局はかなわないことを改めて思い知らされる。それがひどく心地よいことをもう知ってしまったから。それを素直に認めるのは少しばかり悔しくて、ゼフェルはアンジェリークを強く抱き締めた。

ユーイはある意味大人だし、最強だと思います(笑) CDドラマの二人の会話が好きでしたw 

<聖地お笑い劇場>