Melody
その人の曲を聞いて私は育った……。
「アンジェ、このCDどうだった?」
「ごめん…イマイチ……」
両手を合わせて、CDを親友であるレイチェルに手渡すアンジェリーク。
「おススメだったりするんだけどなぁ……」
「守備範囲の違いよ……。私は透明感のある女性ボーカルが好きなんだもの」
「それだけじゃないでしょ?」
好きなアーティストについて語り合えない悲しさに軽く溜め息を吐く。趣味は趣味だから仕方ないけれど。
「アリオスさんのベースを聞いて育った人だもんね。それじゃ、耳が肥えすぎだってば」
「そうなのかなぁ……」
お隣に住んでいた年上の少年にいつも着いて歩いていた。それこそ、よちよち歩きの頃から。十一歳も年上だけれど、その人が
大好きで。ギターをひき始めた頃はアンジェリークが最初の聞き手だった。そして…少年は青年へと成長して。一流のベーシスト
として活動し、全国を飛び回っている。
「あ、ごめん。そろそろ、帰らなきゃ」
時計を見て、アンジェリークはあわて出す。
「あ、そうか。今日、アリオスさん、ツアーから帰ってくるんだもんね」
「うん♪」
満面な笑顔を浮かべて、答える親友に釣られて、レイチェルも笑顔になる。
「じゃあね」
「バイバイ。アリオスさんによろしく」
互いに手を振りあって、親友に別れを告げると、アンジェリークは駆け足で走り出す。大切な人が戻ってくる場所へ…と。
高層マンションの最上階。エレベーターが上ってゆく時間すらももどかしい。エレベーターが到着して、ドアが開くと同時に出て。
目的の部屋に向かう。
カードキーを差し込んで、中に入れば、大切な人がもう待ってくれていて。
「お帰りなさい、アリオス!」
ポン…とその腕の中に飛び込んでゆく。
「おいおい…そんなに慌てなくても、俺は消えやしないだろ?」
「だって…一カ月ぶりだもん。会えるのって……」
「まぁな……」
口ではそう言いながらも、走ってくる少女の足音が聞こえた途端、玄関前で待っていたアリオスである。久々の少女との再会が
嬉しくないわけがない。
「ツアーどうだった?」
「最高のものにしたに決まってるだろ? 俺を誰だと思ってる?」
「アリオス♪」
「バーカ」
こつん…と少女の額を軽くつついて、二人笑いあう。この少女の笑顔を前にすれば、疲れなど吹き飛んでしまう。
「ね…アリオスの音が聞きたい……」
「わかってる……」
一番最初の観客はこの目の前の少女だった。拙い演奏をキラキラとした目で聞いていてくれた。耳ではなくて、心で聞いてくれる。
『心に響いて…心の中に溶けてくような音が好き』
テクニックとかそう言うものではなくて、本質的な何かを気づかせてくれたのは、この目の前の天使の名を持つ少女。彼女は何も
知らないままなのだけれど。
「おまえのために作った曲だ…心して、聞けよ……」
「うん……」
流れ出す旋律にアンジェリークはうっとりと目を閉じる。優しくて、甘い旋律。ツアーから帰れば、いつもアンジェリークのための
曲だと言って、聞かせてくれる。
「ずっと…聞いていたいなぁ……」
何気なく呟いたその言葉にアリオスは手を止めて、苦笑する。
「アリオス?」
突然止まった演奏にアンジェリークはきょとんと首を傾げる。
「ずっと、聞いていたいか?」
「うん…ずっと聞いていたい」
「俺としては、ずっと聞かせるつもりでいたんだけどな」
「……?」
言葉の真意が掴めず、首を傾げるアンジェリークにアリオスは苦笑する。この少女には言葉よりも行動の方が有効らしい。そうと
決めれば、とっとと行動するに限る。
「アリオス……?」
戸惑うより先に、アリオスに唇を塞がれていて。呆然とアリオスのキスを受けている。
「わかったか? ずっと、俺の曲を聞かせる意味……」
「あ……」
カァッとアンジェリークの頬が染まる。
「私…いいの? 私でいいの?」
「あのな…でなきゃ、近所に住んでただけのガキをなんでフリーパスで家に招くんだよ」
しかも、彼女のためだけの曲を作ってあげているというのに。この少女の鈍感さには、溜め息を吐くしかない。
「そう言うことだ。嫌じゃないな?」
もっとも、嫌と言っても手離すことはないが。
「うん。ずっと、アリオスの曲を聞かせてね」
「じゃあ、契約の証だな」
甘い口づけを交わして、新しい二人への誓いを交わす。
そうして、ただ一人の天使のためだけに紡がれる曲が流れ出す……。
アリオス限定キリ番18782番を踏まれたゆきねこ様からのリクエストでバンドマンのアリオスです。でも、本当は追っかけをしてる
アンジェだったのですが、私、追っかけの心理とかはあまり知識ないので……。逃げさせていただきました。すみません……。
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