魔天使の日常


 パタパタ…と、宮殿を走る足音。その足音の主が宇宙を救う伝説のエトワールであったころとなんら変わらない。変わったことはその存在が聖天使と呼ばれる存在になったことくらいだ。
「こんにちは、アリオスさん。今日もお昼寝ですか?」
「けんか売ってんのか?」
「……どうしてですか?」
「……もういい」
 素直で素朴な性格は、別名では天然ともいう。そう考えると、起こる気もうせてくる。
「つかの間の急速ってやつだ」
「お疲れ様です」
「おまえもな」
 そう言い合うと、エンジュは楽しげに笑い出した。
「あ、そうだ、これ。陛下にお土産です。アリオスさん、渡してくださいね」
「おい?」
 アリオスの返事も待たずに差し出されたのは色とりどりのキャンディの入った小瓶。
「おいしいんですよ〜」
「自分で渡せよ」
「私、これから別の聖域に行かなきゃならないんでう。アリオスさん、今日はオフっぽいし。お願いしたいかなぁって思って」
「補佐官にこき使われてんのはお互い様、か」
「やだ、私はこき使われてませんよ。この宇宙が大好きだから、少しでもお役に立ちたくて」
 こぼれんばかりの笑顔できっぱりと言い切られては、反論の使用もない。
「じゃあ、お願いしますね。私、これから、レオナード様ののとこに行きますから」
 そういうと、パタパタとは知ってゆくエンジュをアリオスはただ見送るしかなくて。手の中に残された小瓶のみが彼女がいたことを物語る唯一の証拠。
「しかたねぇなぁ」
 甘いものが好きな彼女、だ。きっと喜ぶであろうことを思って、アリオスは小瓶を見て、笑みをこぼした。


『陛下に渡してくださいね』
 その言葉とともに聖天使から渡されたキャンディの小瓶はポケットに入るほどは小さくはない。入ってもポケットが膨らんでみっともない。仕方なく、キャンディの入った小瓶を持ったまま歩き出した。
「ふぅん、魔天使殿は意外と甘いものがお好き〜」
 揶揄するような声に振り返る気にもなれないが、振り返らなければ振り返らないで、いろいろうるさいのだから、厄介だ。仕方なく振り返れば、そこにはアリオスの予想通りにレオナードの姿があった。
「あいにくだが、聖天使からの預かりものだ」
「あいつ、この俺様に手土産の一つも持ってこないくせに……」
 アリオスの言葉にむっとしたような顔をする。だが、それ以前の問題で、聖天使は遊びに行っているわけではないのだ…と突っ込みたくなる。
「一週間もふらふらと飛び回ってるしよぉ……」
「……」
 どうも、聖天使がいなくて寂しいらしい。だが、大の男が寂しがってる図はあまり見ても楽しくないのがアリオスの本音であるう。
「で、執務をサボってんのかよ?」
「人聞き悪ぃな。気分転換だよ、気分転換」
 悪びれもないレオナードにアリオスは補佐官であるれいちぇるの苦労を垣間見た気がした。もちろん、一瞬であったが。
「気分転換もいいが、さっき聖天使がお前に会いに行くといってたぜ」
「何!? おい、何で、もっと早くいわねぇ」
「普通、守護聖は執務室にいるよな……」
「う」
 アリオスの指摘に反論できないらしいレオナードはすぐに思考を切り替えた。ある意味、プラス思考である。
「ち、邪魔したな」
 大幅で去ってゆくレオナードを見送って、アリオスはため息をつく。
「俺も人がよくなったもんだぜ」
 まぁ、うまくいけば、エンジュが戻る前に会えるかもしれないな…とも思いつつ、また酒没収事件が発生するかもしれないとアリオスは思った。



「で、それがこのキャンディ?」
 くすくす笑いながら、栗色の髪のこの聖獣の宇宙の女王、アンジェリークは小瓶を見つめる。
「綺麗な色ね〜。たべるのがもったいないくらい」
「でも、食うんだろ?」
「そりゃあ。食べないと悪いじゃない」
 くすくすと笑いながら、アンジェリークは小瓶からキャンディをひとつ取り出して、口の中に放り込む。
「美味しい〜」
 幸せな顔で食べるアンジェリーク。
「女は甘いものが好きなんだな」
「……食べる?」
「いらね」
「甘いものは疲れを取るのよ?」
「俺にとっての甘いものはこれだろう?」
 そう言うと、ふわりと掠めるようにアンジェリークの唇を奪う。一瞬、あっけに取られ、次の瞬間には真っ赤な顔でにらみつけてくる。
「あ、アリオスの馬鹿〜!」
 女王になっても、こういうところはまったく変わらない。それがとても愛しいと、アリオスは思った

Web拍手から再録しました。当時は書いてて楽しかったです〜。アリオスとレオナードのやり取りは本当好きですvvv

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