Magical moon with wine
鮮やかに月明りの下、アンジェリークは噴水に腰掛けて夜空を見上げていた。夜着の上に薄いショールをまとい、
月を愛でる少女はどこか幻想的にすら見える。
「こら、何やってる」
「アリオス……」
自分に声をかける青年に少女は笑顔を向ける。極上の笑顔は誰もが引きつけられて止まないもの。
「まったく……。こんな夜遅くに出やがって……」
「ごめんなさい……。月が綺麗で、外に出たくなって……」
シュンと俯いてしまう少女にアリオスは溜め息を吐く。アリオスとしてはからかうつもりで言ったのに、この繊細な
少女は本気で受けとめてしまう。アリオスは溜め息を吐いて、その頭を撫でてやる。
「バカ。別に怒っちゃいねえよ。拗ねてるだけだ」
「拗ねる?」
自分よりはるかに年上のこの青年が何をどう拗ねるのか、アンジェリークは首を傾げる。
「お前が月に見惚れているからな。俺のことなど忘れてるのかと思っちまった」
「そ、そんな……。私、ちゃんとアリオスのこと想ってて……」
自分で言った言葉に赤面してしまう少女。アリオスは悪戯な笑みを浮かべ、そっとアンジェリークの耳元に唇を
寄せる。
「俺を想って…月を……?」
吐息ごと入り込んでくる言葉にこのおとなしすぎる少女はパニックを起こしてしまう。コクコクと頷くしかできなくて。
「あの…一緒に見たいなって、思ったけど……。私のわがままだから、付き合わせちゃ悪いし……」
その言葉に苦笑するしかない。いつもわがままに付き合わせているのは、彼の方。いつもいつも、他人を気遣って
ばかりの少女の滅多にないわがままがこれだという。
「バカ。迷惑ならちゃんと言う。自分の中で勝手に決めるな」
その言葉と共に優しく額に唇が下りてくる。うれしそうな表情を隠さないアンジェリーク。
「…というわけで。月見酒につきあえよ」
その言葉と共にどこから取り出したのか、ワイングラスとワイン。
「あ…アリオス、私、お酒は……」
あまりアルコールに強くない少女が首を振ろうとするが、そんなことに聞く耳も持たない。
「軽いやつだから。お前でも飲める」
グラスに注がれたのは月明りをそのまま閉じ込めたようなワイン。
「綺麗……」
うっとりとグラスの中身を見つめるアンジェリーク。
「飲んでみろよ」
「うん」
恐る恐る、一口口にする。口の中に、さわやかな味が広がる。アルコールもそれほど感じない。
「美味しい……」
「俺には水みたいなもんだがな」
少女でも飲めるものを用意したのだから、仕方ないと言えば仕方ないが。少女が月を見ようとこっそり出ていった
時にこの月に相応しくて、少女に飲みやすいものを選んだのだ。
「うふふ」
傍らにいる青年に子猫のように甘えてくる。普段はおとなしい少女からは考えられない行動。
(これくらいで、酔うか。普通……)
グラス一杯を開けた程度でこれではこの先、思いやられる。
「もっと飲みたいな……」
彼女の口からの珍しいおねだりだが、下手に酔わせて、二日酔いにでもなられたら、叱られるのはアリオスである。
「駄目だ」
そう言って、自分のグラスのワインを飲み干しそうとしたが、それは意外な方法で阻止されてしまった。
「――」
アンジェリークがアリオスを引き寄せて口づける。チロリ…と舌が唇をなぞる。思わず開いたアリオスの唇から流れ
込むワインをコクン…と鳴らせて、飲んでしまう。
「やっぱり美味しい♪」
「あのなぁ……」
酔っ払うといつもより大胆になるらしい。しかも自覚がない。
「誘ってんのかよ、お前……」
グイッと腕を引き寄せて、自分の胸の中に閉じ込めてしまう。普段なら、恥ずかしがって離れようとするのだが、スリ
スリと擦り寄ってくる。
「あったかぁい……」
「お前なぁ……」
まぁ、酒に酔ってるとはいえ、抵抗しないのなら、合意の上と言うことになる。こんなシチュエーションも悪くない。
「アンジェ……」
そっと囁きかける。…が、返事はない。
「って、おい……」
すやすや眠る天使にアリオスは苦笑する。こうなっては手出しができるはずがない。
「仕方ねぇなぁ……」
腕の中の天使を抱き上げると、そっとその頬に優しくキスを贈る。何よりの愛おしさをこめて……。
そして、翌朝。
「昨日、何があったの……」
目覚めると、一糸もまとっていなくて、横には同じ状態のアリオスがいて。昨夜、アリオスとワインを飲んだ後の記憶が
まったくないのだ。
「あの、アリオス……」
恐る恐る聞いてみる。
「さぁな。大胆だったよな、お前」
意地の悪い言葉に少女の頬が紅潮する。パニックに陥る少女に内心で青年は舌を出す。
(これくらいは許されるよな)
昨夜の少女の行動に対する青年のささやかな意趣返しなのであった。
由宇さまからのリクエストですが、全然温和じゃない、偽温和だわ。由宇さまのところの温和ちゃんはすごく可愛いというのに、
こんなのしか送れない自分が悲しすぎる……。
<贈り物の部屋>