Lovers Holiday
朝の光が窓に差し込んでくるその眩しさに、アンジェリークは二、三度、身じろいでから、ようやく瞳を開ける。
暫くはぼーっとしながら、目を擦るが、やがて、自分の周囲の異変に気づく。
「ここ、どこ……?」
昨夜は確かに自分の部屋のベッドで眠りに落ちた。なのに、今、自分がいるのは見知らぬ部屋。見知らぬベッド、見知らぬ調度
品。窓から見えるのは見知らぬ風景。
「アリオスの部屋でも…ないわ……」
恋人の部屋は必要最低限のものしか置いていない。この部屋の調度品は宇宙を司る女王である少女が使っているものとは違う
けれど、それなりの格式がある一品ばかり。
「よう…目が覚めたか?」
「アリオス?」
慌てて、声をした方向を向くと、シャワーを浴びたばかりなのか、アリオスは濡れた髪をわしゃわしゃと無造作に拭っている。
「何だよ、鳩が豆鉄砲食ったような顔をして……」
「何だよって……。ここ、どこよ〜」
自分の部屋でも、恋人の部屋でもない場所で目覚めて、パニックに陥っている少女を面白そうにアリオスは眺める。
「驚いたか?」
「驚くわよ〜。何なの? それにレイチェルは? アルフォンシアは?」
親友と半身。女王である自分が宇宙を治めるために、力となってくれる大切な存在。
「あいつらの許可は取ったぜ? 俺がおまえの分の書類も片づけてやったからな」
「え?」
「あいつらにいつもの三倍以上の仕事を押しつけられたんだぜ? だから、ここのところ、夜はゆっくり一人で眠れただろ?」
「///」
いわんとするところを悟って、アンジェリークは真っ赤になる。そう…ここのところ、アンジェリークは一人で眠っていた。毎晩の
ように求めてくる恋人とはここ数日、夜を共にはしていなかったが。まぁ、求めてこなければ、そんな夜もあるだろうと、気にしも
しなかったのだ。
「……で、どういうこと?」
何とか話題を変えようと、状況の説明を求める。今日は平日である。日の曜日ではない。女王である自分が自分の責務を放棄
するわけにはいかない。
「今日はホワイトデーとやらだろ?」
「え…ええ」
カレンダーの日付は三月十四日。バレンタインデーの一カ月後。
「バレンタインの礼をする日なら、こういうのもありだと思ったからな」
「え?」
言っていることが分からない。確かにホワイトデーだが、この部屋の状況とどう結びつくのだろう。
「ま、そういうわけだ。おまえの着替えはそこにあるからな。とっとと着替えてこい」
そう言って、手短に着替えると、アリオスは戸惑ったままのアンジェリークを置いて、出ていってしまった。
「……」
とりあえず、このままぼうっとしていても仕方ない。顔を洗い、髪を梳かして。用意された服に着替える。いつもの女王の正装では
なく、カジュアルなブラウスとデニムのミニスカート。ハイソックスにスニーカー。
「何か…久しぶり。こんな恰好♪」
鏡に映した自分の姿に少しだけはしゃいでしまう。女王候補になるまでは、こんな恰好で友人とよく遊んでいた。今は女王としての
威厳もあるから、こんな恰好などできるはずがない。
(普通の女の子みたい…だよね)
女王としての責務があるから、そんなことは考えもしたことはなかったけれど。なかなか楽しい。
「アリオス、お待たせ」
着替え終わると、隣の部屋で待っていたアリオスが煙草を吸っていた。アリオスは黒のシャツにカジュアルな麻のスーツ姿。
(……何か、カッコイイよね)
普段、宮殿で見ている正装も素敵だけれど、こういったラフな恰好のほうも彼には良く似合っていて。思わず、見とれてしまう。
「何、ボーッとしてんだよ」
「え…えっと……」
だからといって、正直に答えることも恥ずかしい。複雑な乙女心である。
「よく似合ってんな、それ」
「え……」
「見立ては補佐官殿だが、なかなかイイじゃねぇか。ま、女王やってるときはムリだろうがな。ない威厳を見せなきゃいけねぇし?」
「どういう意味よ……」
複雑ではあるが、一応は誉めてくれてはいるらしい。だが、物には言いようがあるはずだ。
「じゃ、出かけるぜ」
「えっ、どこに? それに仕事〜。大体、何で私、こんな恰好をさせられて、ここにいるの?」
そう一番聞かねばならないポイントである。仮にも彼女は宇宙の女王。こんなところで時間を無駄に過ごすわけには行かない。
「バーカ、おまえ、何聞いてたんだ」
ピシッと、デコピンをされる
「痛ーい〜」
上目遣いの抗議もどこ吹く風である…とでも言うように、アリオスは煙草を灰皿に押しつける。
「ちゃんと補佐官殿の許可は取ったって言っただろうが」
「何の許可よ。何の説明もしてないじゃない〜」
「おまえ、ヘンなところでは妙に鋭いくせに、何でここではニブいんだ?」
まぁ、それが彼女の性分であることは重々承知しているけれど。アリオスは切り札をポケットから取り出す。それは超人気のテーマ
パークの一日パスポート。
「……これ?」
「バレンタインの礼だ。今日は一日ここで遊ぶぞ」
「いいの?」
途端に目を輝かせる恋人にアリオスは苦笑する。女王としての顔ではない、ただの十七歳の少女の顔。
『遊園地デートって、したことないのよね〜』
以前、何かの折にレイチェルとそんな話をしていたのを彼は覚えていたのだ。女王である少女がそう簡単に出歩けるはずもなく。
諦めるしかないと苦笑していたことも。
「ありがとう…とっても嬉しい♪」
満面の笑みを浮かべて喜ぶ少女にアリオスも満足げに笑う。釣った魚に餌は忘れないのである。何よりも、少女の笑顔で自分も
心が満たされるのだから。
「飯はその辺のファーストフードで我慢しろよ? 一日遊び倒すんだからな」
「うん、たまにはイイよね」
「じゃあ、行くぞ」
そう言って、アリオスが手を差し出せば、アンジェリークはその手に自分の腕を絡める。恋人たちのデートはこうして始まっていった。
バレンタイン創作です。ちょっと爽やかなラブラブを目指しました。こういうのも新鮮ですね(笑)
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