見上げる先に……




 むせ返るような花の香り。見上げる空はどこまでも青い。だが、少女の意識はそのどれにも捕われず、間近にある青年の瞳に
だけ。

「アンジェ……」
「ア、アリオス……」
「クッ…なんて顔してやがる」
 からかうように、つん…と額をつつかれる。まるで小さな子供をからかうように。
「だ…だって……」
 今の状況を考えてみれば、当然の反応なのだ。地面に横たわされて、ほんの少しの距離で唇が重なる位置にアリオスの顔が
あって。

「だ、誰かが来たら……」
「バーカ。誰が来るんだよ」
 少女の栗色の髪を梳きながら、アリオスはアンジェリークにさらに詰め寄ってゆく。
「アリオスってば……」
「うるせえ口はふさぐに限るな」
「んぅ……」
 抗議の声はそのまますべてアリオスの唇に飲み込まれる。強く求めてくる口づけに、意識が奪われてしまう。
「はぁ……」
 唇が離れた瞬間、銀の糸が切れる。それにカッと頬を赤らめる少女をアリオスはニヤニヤと見つめている。それが悔しくて、
睨みつけようとしても、潤んだ瞳では効果がないことに少女は気づいていない。

「もう…知らない!」
 プイッと顔を背けようとするが、不意にその動作を止める。
「どうした?」
 何かに魅入られたような表情をする少女にアリオスの声はやや不機嫌の色が交じる。
「ん……。ほら、雲。アリオスの言ってた通りだなって思ったの」
「は?」
「色んな形の雲が流れてるって言ってたじゃない。本当なのね……」
「おまえな……」
 楽しそうに空を見上げる少女に、アリオスとしては、こんなふうにかわされるとは考えていなかったので、気が抜けてしまう。
「ったく……。そんなこと、憶えていたのかよ」
「憶えているわ。アリオスの言ったことだもん。大切な宝物よ」
「……バーカ」
 口ではそう言いつつも、自分の何気ない言葉をちゃんと憶えていてくれることが嬉しくないはずがなくて。
「まったく…気がそがれちまったぜ。これだから、お子様は困るんだよ」
 口調とは裏腹に、口元に笑みを浮かべ、ごろりとアンジェリークの横に寝転がる。
「アリオス?」
「雲、見るんだろ? つきあってやるよ」
「うん♪」
 二人、花の香りに包まれて、空を見上げる。些細なことだけれども、心を満たすのには十分すぎる時間。
 そっと繋いだ手から伝わる確かな温もりが、今、この時間が現実であることを伝えてくれる。
 これから先も、決してこの手を離すことはない。もう二度と、心に背かない。そして…これからも。二人がずっと共にあるために
……。

トロワ創作です。イメージ的にはEDのスチルの直後です。うふふ、これは表バージョン。ふふふ……(誰か、こいつを止めろ……)

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