らいおんハート
擦り傷だらけの少年を見た時、レイチェルは大きくため息をついた。少年はこの宇宙に1番最初に生まれた人間の生命。そして、
この宇宙を司る栗色の髪の天使がすべてを捨てて選ぼうとした青年の転生した姿。だから、この少年が病気や怪我などをしよう
ものなら、どんなに心配する事か。
「どうしたの、それ」
「なんでもない」
「なんでもないってね……。擦り傷だらけだし、服も汚しちゃって……。これから、陛下と謁見だよ」
「わかってる」
「わかってない。そんな格好じゃ、また心配かけちゃうんだからね」
その言葉にプイと顔を背けてしまう。まだ、十にも満たない年齢の子供。
「とりあえず、手当てして。着替えてね」
「……」
レイチェルに向けるのは反抗の眼差し。少年にとっては公式行事以外で、年に一度、大切な天使に会える日。だが、レイチェルも
容赦はしない。
「陛下の衣装とかが汚れたら困るんだけど?」
「……わかった」
女王陛下に謁見の時間が遅れることを伝えられたのはそのすぐあとであった。
「どうしたの、その姿……」
女王補佐官以下の人間を下がらせ、二人きりの謁見の間で心配そうに栗色の髪の天使は少年を見つめる。着替えて、手当てを
したと言っても、バンソウコウだらけなのだから。
「これ……」
少年が玉座に座る天使に近づいて手渡したのは綺麗な小鳥の羽。
「これの雛が巣から落ちてて。戻してやろうと木に登ったのはいいんだけど。降りる時に足を滑らせちまった。アンジェに心配かける
気はなかったんだ」
「優しいのね。アリオスは」
慈愛のこもった眼差しで、アンジェリークはアリオスを見つめる。だが、アリオスはゆっくりと首を振る。
「違う。俺はアンジェならそうするだろうと思ったから、そうしただけだ」
「アリオス?」
真摯な少年の瞳にアンジェリークは戸惑う。
「アンジェが女王なのは知ってる。この宇宙全てに祈りを捧げる存在だってこと。俺だけじゃなくて、総ての生命たちに……」
幼いながらに理解している。アンジェリークがどれだけ、この宇宙を愛しているか。それが悔しくない事はないけれど。それでこそ、
アンジェリークだと判っているから。
「でも、アンジェはそういうことが出来ない立場なのも知ってる。だから、俺がやる。アンジェが些細な事で心を痛めないようにする」
「アリオス……」
アリオスはそっと天使の手をとって、その甲に口づける。
「まだ、俺は小さいけど。アンジェを守るために生まれてきた。アンジェの心も身体も俺が守ってやる。だから、ちゃんと待ってろよ」
強引で、傲慢な言葉。だが、なによりも思いが込められていて。目の前にいる栗色の髪の天使、それが彼にとっての存在理由。
「絶対、アンジェを泣かさないから……」
その言葉とともに、フワリ…と掠めるように口づけられて。
「えっっ」
戸惑うアンジェリークに不敵にすら微笑んで。
「待ってろよ。俺がアンジェを守れるくらいになるまで。他のオトコに手を出されるんじゃないぞ」
「そ、そんなことあるわけないじゃない。私は……」
誰よりも大切な人。一度なくして、けれど、ここに生まれてきてくれて。嬉しくなかったはずじゃない。
「私はあなたが大切なのよ……」
玉座から降りて、少年を抱きしめる。甘い香りが少年をフワリと包み込む。コツン…とおでこをあわせて。絡み合う視線。クスリと
互いに笑いあう。そして、どちらからともなく、口づけあう。
小さな誓いと共に……。
18000HITを踏まれた翠さまからのリクエスト。「僕の天使に手を出すな」の続きと言うか、ちびアリオスです。コンセプトはSMAPの
“らいおんハート”。だって、あれ、どう聴いても、私の中のちびアリオスなんですもの……。