Happiness Lunch
「あれ、シゲさん?」
驚いた声に呼び止められたように、シゲは足を止めた。
「おう、ポチやないか。なんや、おまえも買い物か?」
「はい」
にっこりと頷いて、将はシゲの買い物籠の中に視線を移した。
ふっと眉をひそめる。
「シゲさん」
「んー、なんやぁ?」
将の強ばった声に首を傾げながら、シゲは間延びした緊張感の欠片もない声で返事を返した。
「それ、まさかとは思いますけど……」
「ご明察。俺の昼飯や。けど、それがどうした?」
なにか問題でもあるだろうか、とシゲは自分のもっているスーパーの籠の中身をじっと見つめる。
「駄目ですよ?」
まじめな顔して、将がシゲを軽く睨んだ。
「カップ麺ばかりじゃないですか!」
「あー、でもなぁ。基本的に昼間は自炊でな。面倒なもんやから……。一人分だけ作る面倒さは、ポチにも判るやろ?」
苦笑して言い訳を口にしたシゲに、将は「判りますけど」と渋々頷く。
「休みの日っていつもなんですか?」
「カップ麺?」
「そうやなぁ。たまにパンとか食う時もあるけど」
基本的にカップ麺を食べている、とそう告げると、将の幼い顔が歪んだ。
「それ、戻してください」
「へ?」
言われたことが判らずに間抜けた顔で立ち尽くしたシゲの持つ籠の中身を、将は遠慮なく店に戻してしまう。
ぼんやりとそれを眺めていたシゲは、最後の一個が棚の中に戻されるに至って、ようやく金縛りから解けたように動きと言葉を
取り戻した。
「おい、何するんや?! それは俺の昼メシ……」
「身体に良くないですよ! 栄養が偏っちゃいます。こんなのばかりだと」
将の妙な迫力に押されて、シゲはさらに言い募ろうと開きかけた口を閉じた。
「決めました!」
不意に、将がきっぱりと宣言する。
「休みの日のシゲさんのお昼ご飯は、これから僕が作りますから!」
「へ?」
「カップ麺なんて食べさせませんからね?!」
可愛く睨み付けられて、シゲは一体どんな顔をすればいいのか判らなくなった。
言われた言葉の意味が、一瞬判らなかったけれど。
「ポチが作ってくれるんか? 俺のメシを?」
驚きが薄れていって、シゲはニヤニヤと口元を緩める。
棚からぼたもち、とはこう言うことを言うのだろう。
買い出し中のスーパーで偶然会えた。それだけでもずいぶんラッキーなことだと言うのに……。
将自らが、休みの昼食をシゲのために作る、と宣言してくれた幸運。
馬鹿みたいに多いライバルたちに差をつける、これをチャンスと言わずになんと言おうか。
「それやったら、カップ麺食べるのやめるわ」
シゲがそう言うと、将が嬉しそうに破顔した。
「僕、腕振るいますから! シゲさんの好きなものって何ですか?」
にこにこといって、将は歩き出す。
「んー、そうやなぁ。とりあえずポチが俺のために作ってくれるもんやったら、嫌いなやつでも食べれるで?」
にっこり笑って言ったシゲの言葉に、将は顔を真っ赤に染め上げて、「からかわないでください」と困ったように抗議した。
「今日、これから邪魔してもいいんか?」
将の手から買い物籠を取り上げて、シゲは傍らの将の顔をのぞき込んだ。
「はい! 今日は功兄もいなくて、僕ひとりですから。だから、シゲさんと一緒の方が嬉しいです」
完全無敵の笑顔で言われて、シゲは幸せな顔になる。
「そしたらご馳走になりに行くか」
これから休みのたびに、ずっと。
約束をするように言えば、将の顔が嬉しそうに輝いて、シゲを見上げた。
まどか様から、また戴きました。しかも、今度はシゲ×将〜。ありがとう〜。私も、なにか書くよ……。