彼の特別

 

 その光景を見た時、一瞬、アリオスは戸惑ってしまった。平日の日の天使の広場で歩いている男女。守護聖と栗色の髪の
天使の姿。楽しそうに話をしている。

 彼女が女王であり、このアルカディアと名づけられた地を育成し、未来の宇宙を救うと言う立場上、それはある意味、当然の
こと。守護聖との信頼関係を気づくのには、互いに親しくなる必要がある事も確かだし、どの人間とも公平に付き合わないと
いけない事も確かだ。いちいち嫉妬するほど、心は狭くない。アリオスが気になったのは、別の意味でのこと。

(あいつ、あんな顔して笑ってたか……?)
 いつも見る彼女の笑顔とは違う。くるくる変わる表情の変わりに、落ち着いた笑顔。 あえて言うなら、女王としての顔とでも
言うのだろうか。

(ああ、時々はあんな顔をしていたな……)
 あの旅の合間にも垣間見た女王としての顔。今も自分たちのいるこの場所や彼女が治める宇宙の話などになるとみせる顔
つき。その時はただの少女ではなく、女王の顔になる。

(俺の前だけ、か……)
 アンジェリーク自身は意識していないが、彼らにたいして、距離を置いているのだ。いい意味でも、悪い意味でも、女王として、
無意識に振る舞っている。それは多分、彼らがアンジェリークが女王となる前から、知っている間柄であり、それが抜けない
のだろう。

(ま、未だに“様”だの“さん”づけだしな……)
 初めての出会いの時、アリオス自身は敬称も敬語も断った。だからこそ、アンジェリークはアリオスに対して、かなりくだけた
態度で接するのだ。あるがままの素顔はいくらでも、思い出せる。

(俺だけが知る、天使の姿か……。ま、悪くはねえな)
 そう思えば、アンジェリークが自分以外の人間と歩いていても、許せる気がした。あくまでも、気がしただけだか。

 日の曜日の“約束の地”。たった一本ある木の下で待ち人が一人。いつもの時間に、いつものように駆けてくる天使を待ち
わびる。

「アリオス〜」
「来やがったな……」
 走って来なくても、アリオスは別に逃げもしない。何度もそう言っているのに、アンジェリークはやめない。その度にこう言う
のだ。

「だって、アリオスに早く会いたくて」
 何の打算もなく、無邪気に言われるその言葉に何度絶句したか。この天使は何も気付いていない。
「よっぽど、俺に会いたかったわけか。そこまで惚れられてるってことだな?」
「な……?!」
 そうかと思ったら、こんな些細なことで真っ赤になる。
「ゆでたこみてえだな」
「知らない!」
「今度はふぐか?」
 感情のままにくるくる変わる表情。見ていて飽きることはない。
「おまえのそんな顔、あの連中が見たら、どう思うかな」
「こんな顔をさせるのはアリオスだけだわ」
 未だに拗ねた表情を戻さない。アリオスの前でだけ見せる少女の可愛い一面。それを見られるのは、何よりもの、アリオス
だけの特権。

「それでいいんだよ」
「何が?」
 言いたい事が分からないと、怪訝そうな顔をするアンジェリークの腕を取って、引き寄せる。
「きゃっっ!」
 いきなり至近距離で近づかれ、慌てるアンジェリーク。こんな顔を見るのも、自分ひとりでいいとすら、アリオスは思う。
「女王のおまえも悪くはねえがな、そのままのおまえが一番だな」
「え……」
 チュッ! と軽く頬に口付ければ、途端に真っ赤になって、何処までも可愛くて。
「おまえはあるがままでいいってことだ」
「それって……」
 それ以上の言葉は強引に飲み込んでしまう。明らかに独占欲であることは、自分が一番自覚している。
 その泣き顔も怒った顔も、拗ねた表情も、笑顔もすべて、自分だけのもの。他の誰にも譲れるはずがない。天使が彼を呼び
戻したのだから、それは当然のこと。

「アリオス……」
 潤んだ瞳で、あどけなく見上げてくる顔。こんな表情を他の誰に見せられると言うのだろう。
(見せられるわけがねぇ……)
 心の中でそう呟きながら、アンジェリークに再び口付けを送るアリオスであった。


36379番を踏まれたサミー様からのリクエスト、「アリXアン激甘バカップル」ですが……。アリオスが自分の立場を理解して、
思いっきり乱用してるだけかも……。