恋愛の時空
君が僕の目の前に再び現れた時、僕は運命ってものを信じてみる気になった。
僕は女王試験が終わってから、故郷である“霧の惑星”に戻っていた。アトリエはたくさんある。けれど、僕は
そこを終の棲家兼アトリエにするつもりだった。あの女王試験の日々は僕の人生の中で、てても色鮮やかな
もので。それ以上のものはない、そう思っていたから。人の中で、色あせた日々を送るよりも、自分だけの世界の
中でこの手が描きたいものを、奏でたいものを、綴りたいものをつむぎだすだけの日々でいいと思っていた。
君が僕の前に再び現れるまでは、ね。
僕は俗世間が嫌いな人間で、君は普通の女子高生だったから。普通ではありえない出会いだったよね?
ある意味、僕と君が出会ったのは運命だ。出会うはずのない二人が出会ったんだから。
新宇宙の女王候補とそれを導く教官。それが僕たちの関係だった。君は勝気というより、負けん気が強い
性格で、僕はこのとおりの性格で。君はよく僕に反発していた。自分が納得できないことはとことん貫く性格の
持ち主が二人。ぶつかり合えば、それは悲惨で。ヴィクトールとティムカが何度も僕らをとりなそうとしてたし、
君のライバルであったレイチェルですら、精神の授業に影響がしていないかと心配していた。今となっては君に
とっても僕にとっても笑い話だろうけど。
僕と君はある意味よく似ていた。気まぐれな僕と感覚で行動している君。…なんて、言うと君は怒るかな?
でも、それは大切なことだったよね。理論は後で裏付けることはできるけれど、感性というものはそうやすやすと
身につくものじゃない。君は僕に反発しながらも、授業はちゃんと受けていて。しかも、結構優秀だった。そりゃ、
僕だって人間だ。優秀な教え子には手ごたえを感じる、好ましく思う。そして、君だって結構現金で。僕の態度が
柔らかくなった途端に、僕に笑顔を見せるようになった。似たもの同士なんだよね。似ているからこそ、反発した
時は反動が大きい。けれど、はまった時はぴったりと重なるんだ。まるで、対のようにね。
だから、僕は君と多くの時間を過ごした。君が誘いに来たり、僕が誘ったり。やがて、来る別れのときまで、僕
たちはその時間を共有し、それはかけがえのない時間だった。君が女王への道を選んだ瞬間まで。
僕は君がそうすると思っていたから、僕は引き止めることはしなかった。僕が芸術という道に自分の世界を
見出したように、君は宇宙という場所に自分の居場所を見出したんだから。
君はどうだったかは知らないけれど、僕はやがて来る別れを理解していたから。踏み込むつもりはなかった
んだ。そうしたら、傷つかずにすむしね。
なんて、笑える話だ。踏みこまなくったって、君が入り込んでくるんだから、意味はなかったんだよ。君は色
鮮やかに僕の心に焼き付いて言ったんだ。もう、消えることのない刻印のように……。
なのに、さ。また、君に出会えるなんて。見慣れない衣装を着た君は宇宙の危機に瀕しているから、協力して
くれと申し出てきた。不謹慎だけど、面白そうだと思ったのもまた事実。けれど、君と再び同じ時間を過ごせる
チャンスに感謝
したい気分だった。
君は何も変わっていない。女王候補の頃と何一つ変わっていない。まっすぐで意志の強い瞳。強く、焼き付け
られるように。君はどんな場所にいたって、どんな立場になったって、君でしかないんだ。それはひどく単純だ
けれども、大切なこと。僕はそんな君だから目が離せないんだから。
君はこの戦いが終われば、また自分のいるべき場所に戻ってしまうけれど、僕はもう引きこもることはないだろう。
だって、僕がどんな場所にいても、君が女王でいても、きっと僕らはまた巡り合うんだ。
本来なら、巡り合うことがなかった僕たちが二度も出会ってるんだ。出会ってしまえば、いつだって僕たちの
時間に戻れてしまう。まるで、昨日笑って別れて、今日に会うように。どんな姿でいたって、どんな場所にいたって
関係ない。
そこにいるのが僕と君でいること。ただそれだけのことなのだから。
運命の恋人は赤い糸で結ばれているようだけれども、僕たちはナイロンザイルかもしれないね。その方が僕たち
らしい気がする。…なんて言ったら、君はどんな顔をするだろう。いつか、話してみるのもいいかもしれない。その
時には僕たちは何度目の出会いを果たしているんだろうね?
74000番を踏まれた輝元悠音様からのリクエストで「天空〜で再会したセイラン・コレットの話」です。セイランの一人称ですが、
書いてて、楽しかったです。赤いナイロンザイルで結ばれた二人って、強力ですねぇ……(笑)
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