視線
視線を感じて、アリオスが顔を上げると、翡翠の瞳と視線が重なった。だが、真っ直ぐに投げ付けられる視線は反らされる
ことがない。
「なんだよ、執務中だぜ、女王陛下?」
「手持ちの書類のサインは済んだもの。今の私の仕事は後はあなたの報告待ち」
悪戯っぽくアンジェリークは笑う。確かにアンジェリークの机の上の書類は綺麗に片付けられている。トロいとか言われは
するが、仕事は確実に処理している。ちゃんと、女王としての義務は果たしている。もちろん、それは当然のことではあるが。
栗色の髪の女王が治める宇宙はまだまだ若い宇宙で。女王と女王補佐官と守護聖が一人の状態。当然、一人の抱える仕事
量も多いのだ。
「ジロジロ見られたら、落ち着けねえんだよ」
「アリオスでもそんなことがあるの?」
「おまえな……」
心底意外だと言わんばかりのアンジェリークの表情に大人げないとは思いつつ、ツカツカとアンジェリークの座る女王の執務
席まで詰め寄って行く。
「人が真面目に仕事をしてんのが、そんなに珍しいか?」
「アリオスは私が見てたら嫌なの?」
咄嗟に切り返される。トロいというのはある程度の表面上のことで、実はかなりのしっかり者でもある。守護聖の前では猫を
かぶっている部分があるが、少女は勝気というより、負けん気が強い。挑むような視線がとても印象的だ。ここは下手にごま
かすよりも真実を告げるほうが賢明かもしれない。
「馬鹿。おまえだから、だろ?」
「私だから?」
「ほれてる女の視線を感じてりゃな、いくら俺が優秀な男でもドギマギするってことだ」
「何、それ?」
くすくすとアンジェリークは笑う。だが、珍しく子供じみた態度を見せる相手に、自分の手の内を明かしても悪くないと思った。
「あのね。アリオスって、髪をかき上げる癖があるでしょ? 私、それを見るのが好きなの」
「……で、見てたのか?」
「うん」
あっさりと頷いてみせるアンジェリークにアリオスはクッと軽くのどを鳴らして笑う。
「その笑い方もね、好きなの」
無邪気に告げられる言葉が続けられると、さすがにアリオスとしても反応に困ってしまう。自分の何気ない癖が少女にとって
特別なものに移るだなんて。考えたこともなくって。髪をかき上げるのは前髪が瞳にかかるのがうっとうしくて、ついついやって
しまうことだし、笑い方にしてもそういう笑い方がいつのまにか身についてしまっただけだというのに。
「見られるの、嫌?」
「……」
何と答えるべきか。じろじろと見ているわけでもなく。好奇の視線でもない。これが他の人間だったら、願い下げだが、愛しい
少女が見つめているのだ。嫌なわけがない。
「俺だけを見てるのか?」
「……うん。だって、大好きな人の仕草っていつまでも見ていたいいでしょ?」
「おまえって奴は……」
白旗を揚げるしかない。無邪気にあっさりとこんな風に言われてしまっては、どんな言葉も今のアンジェリークの言葉には
かなわない。万物に愛をささげる宇宙の女王の素顔はこんなにも可愛くて。それが自分だけのものなのだから。
「じゃぁ、俺だけをずっと見てろよ」
「うん。もちろん」
限りなく独占欲に満ちた言葉をあっさり肯定して、受け入れて。かなわないと思いつつも、アリオスはご褒美にとその柔らかな
唇に口付けを与えた。
71000番を踏まれたヴィーア様からのリクエスト、「アリコレでロイヤルミルクティに砂糖を追加するような甘甘」
です。いやぁ、なんというか……。こういうのもあり?
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