サマードレス

 青い空。まばゆい夏の日差し。ここに海がなければ、意味はない。少なくとも、アンジェリークにとってはそういうものだ。
「わーい。海だ〜」
「おまえ、はしゃぎすぎ」
 大海原を前に、喜びを隠せないアンジェリークをアリオスはやんわりとたしなめる。
「あら、だって、海よ。はしゃぎたくならない?」
「おまえほどには」
 理由にもなっていない。
「それにせっかくのお休みなのよ。楽しまなきゃ」
「まぁ、そうだけどよ。そこそこに落ち着きを持ってくれよ、女王陛下」
 そう、自分達が普通の恋人同士だったらともかく、宇宙の女王と女王に仕える守護聖、それが二人の公式な関係。だが、
今はそれを忘れて、恋人同士の時間。
「いいじゃない。人が来るわけでもないし。多少の羽目を外しても平気よ」
「まぁ、そうだが……」
 忙しい公務の毎日に彩を…と言うわけではないが、公務ばかりでは息が詰まってしまう。そういうわけで、交代で休みを取る
ことにしたのだ。海洋惑星に作られたプライベートビーチは王立研究員用の保養施設。それを借り切ってのこと。この惑星での
一週間は聖地の時間で言えば、1時間程度。休憩時間に…と言うわけである。
「海の家がないのが残念だけどね」
「あってたまるか」
 プライベートビーチには残念ながら、そんなものは存在しない。
「アリオスは知らないだろうけど、海の家には結構美味しいものがあるんだから」
 女王になる前はごく普通の少女であり、友人たちとの海水浴の経験もある少女と、そんなところに前世も今も縁のなかった青年
との認識にはギャップがかなりある。
「大体、イモ洗いに行くようなもんだろう? ああいうところは」
「でも、それはそれで楽しいの!」
 ピシッと、決めポーズ。果たして、今の少女を宇宙を司る女王だと言って、何人の人間に通用するだろうか。だが、アリオスが
気に入ってるのは紛れもなく今の目の前の少女で。万人に愛を与え、導く女王よりも、目の前に海を見てはしゃぐ少女なのだから、
それはそれでいいとは思うのだけど。
(甘いなぁ、俺も……)
 たとえるなら、それは“ほれた弱み”というもので、今のこの時間を少女と過ごせることは何よりも大切な時間。自分だけのもの、
と言う認識を持てるのだし。
「ねぇ、早く泳ごう!」
 じぶんのこんなきもちなどには気づくことはなくはしゃいでいる少女に苦笑するだけだ。女王でない表情を見ているだけで、満た
されている身としては。
「水着に着替えるのが先だろうが」
「……そうだけど」
「何なら、このまま、それ脱いで泳げばいいじゃねぇか」
「……」
 アンジェリークが身にまとっているのは、明るいオレンジ色のサマードレス。この風景によく映えている。おろしたて〜とはしゃいで
いた。
「……脱いで泳げ、と?」
「その格好じゃ、泳げないだろ? ここはプライベートビーチだし。俺以外の人間はいないぜ」
 もちろん、アリオスはアンジェリークをからかう意味で言ったのだが、アンジェリークは不敵に笑って見せる。
「わかった。そうよね。アリオスだけだもん」
 そういうと、いきなり背中のファスナーを下げ始める。
「お、おい。アンジェリーク!」
 いくらなんでも、と思ったアリオスはあわてて止めに走るが、その前にスルリ…と、アンジェリークの身体からドレスが落ちる。
「なーんてね」
「おまえなぁ……」
 サマードレスの下はビキニの水着。してやったりとアンジェリークは笑う。
「アリオスを驚かせようと思ったの♪」
 そういうと、サマードレスをしわにならないようにたたみ、木陰に置く。
「さ、泳ぎましょう♪ アリオスだって、下は水着でしょう?」
 アリオスの返事も待たずに波打ち際へ。
「やぁん。カニがいる〜」
 さっさと楽しんでしまっている恋人に苦笑しつつ、アリオスは自分も服を脱いでぬれない場所へ遠くと、アンジェリークの側に行く。
 恋人たちの夏休みはこうして始まった。
 

68000番を踏まれた玻璃さまからのリクエストです。「海に行く二人」です。ちょうど、コピー本を作ろうと思ってたので、
ノリノリで書きました。

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