切り札

 ビクビクした視線を感じて、アリオスは視線の持ち主を振り返る。すると、途端に顔を背けられる。
「さっきから何だよ、アンジェリーク?」
 かける言葉とは裏腹に、余裕の表情。
「言いたいことがあるなら、とっとと言ったらどうだ?」
「!」
 一気にアンジェリークの視線がきつくなる。いわゆる逆ギレだ。
「何よ〜! それはアリオスの方でしょう!」
 ボスッとクッションまで宙に舞う。というより、アリオスに向かって投げ付けられる。だが、ひらりとアリオスがよけて
しまうので、余計に苛立ちが募るらしい。
「俺のは別に今すぐに言わなくてもいいことだろう? それとも、待ちきれねえのか?」
「だ、誰がよ!」
 ますますアンジェリークはムキになる。かなり、頭に血が上り始めているようだ。
「なら、俺がいつにしようと俺の勝手だろう? 賭に負けたのはおまえなんだからな。負けは素直に認めろよ、女王
陛下」
「〜」
 負けず嫌いで勝ち気なアンジェリークではあるが、賭とはいえ、一度約束したことを守らないのは彼女の信条に
差し障る。悔しそうに顔を背けるのが精一杯というところであろう。
 そんなアンジェリークをアリオスは楽しげに見つめていた。

 そもそもの原因はというと、レイチェルが部屋の模様替えを始めたことからであった。その途中で見つけたオセロを
アンジェリークが借りて。アリオスと気分転換に遊ぼうと思ったのだ。
 それがどうしてそうなったのか、負けた方が勝った相手の言うことを一つだけ聞くことになったのだ。今にして思えば、
売り言葉に買い言葉で、上手く言いくるめられたのかもしれない。
 勝負はアリオスの圧倒的勝利であった。そして、今の状態がある。どんなことを言われるのか、たまったものでは
ない。

 そして、今は余裕しゃくしゃくのアリオスの表情が恨めしいアンジェリークである。。
「アンジェリーク」
「な、何よ!」
「何身構えてんだ?」
 唇の端に笑みを浮かべて近づいて来ているというのに、身構えなくてどうしろというのか。
 気がつけば、ソファとアリオスに挟まれている。逃げることもできない。
「あ、アリオス?」
「どうした?」
 唇が触れ合う寸前で押しのけようとする手を取り、口づける。
「抵抗するか?」
「……」
 ここで抵抗すれば、何か無体なことを言われる気がして、アンジェリークがおとなしく瞳を閉じると、柔らかな口づけが
降りて来る。
「あ……」
 首筋に口づけを落とされると、甘い声が零れる。
 ソファに押さえ付けられたまま、ドレスのファスナーが降ろされる。
「あ……」
 抗えば、どんな言葉を言われるか。そう考えてしまい、アンジェリークはそのまま流されてしまう
しかなかった。

 しばしの時間がすぎた後、ぐったりとソファでまどろんでいるアンジェリークを抱き上げ、ベッドに運んでやる。結局、
アリオスは何も言ってはいない。だから、まだ何もしてもらってはいないのだ。アンジェリークが聞いたら、確実に怒る
だろうが、知ったことではない。
「切り札は最後までとっておかねぇとな?」
 そう呟くと、アリオスはアンジェリークの頬に優しく口づけを落とした。

 


 アリオス限定キリ番52440番を踏まれた久路知紅さまからのリクエスト。「何時にしよう」です。裏は止めました。
 だって、ねぇ……。こういうアリオス、好きかも。

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