節分
一人で暮らし始めてから、季節の行事にはほとんど縁がなかったここ数年。だから、アリオスは帰宅後の夕食に多少
戸惑った。
「何だ、これ……」
「何って、太巻き。これだけじゃ寂しいから、いわしのつみれ汁とほうれん草の白和えもね」
「何で?」
「何でって……。今日は節分でしょ? 豆も買ってあるんだから」
アンジェリークのその言葉に、そういえば、帰り道のすし屋に≪太巻きあります!≫のチラシがあったことを思い出す。
玄関にもいわしの頭とヒイラギの枝があった。
「今年の恵方の方角はね、あっちなの」
そういいながら、アンジェリークは太巻きを手にとる。
「その方向に向かって、太巻きを食べれるといいんんだって」
「すし業界の陰謀か……?」
「もう、風情がない!」
確かに、その説が流れたのは関西方面のすし屋と言う説がある。だが、それを言えば、バレンタインも土曜の丑の日の
うなぎも同じようなもの。せっかく根付いた文化は大切にしたいものだ。
「太巻きを食べてる間はお話しちゃいけないのよ。無言で食べなきゃいけないの」
そういうなり、アンジェリークは太巻きをぱくつき始める。
(どういう言われなんだか……)
突っ込んではいけない。伝統行事とは得てしてそういうものなのだ。だからと言って、アンジェリークが無言で食べている
様子を見て、なんとなく手持ち無沙汰で。
「TVつけるぞ」
リモコンでスイッチをオンにする。だが、タイミングがかなり悪すぎた。
『違うやろ!』
爆笑の声。バラエティ番組だったらしい。しかも、ギャグが決まった画面。
「ぐ……」
思わず吹き出しそうになったアンジェリークはそれをこらえて、食べ続けた。ある意味、根性とも言えるだろう。
「ほれ、お茶だ」
何とか、頑張って食べ終えたアンジェリークにアリオスはお茶の入ったコップを差し出す。受け取って、それを飲み干す
と、恨みがましい目で見上げてくる。
「ひどいわ。死ぬかと思ったじゃない!」
「ああ、悪かった」
確かにTVをつけたのはアリオスだから、ここは素直に謝っておくことにする。後が怖い。
「ニュースに変えるから」
「ああ」
ニュースでは今日の政治や事件、節分の話題が流れている。アリオスも太巻きを食べながら、それを見る。
「豆まきの豆も用意してるから、撒いてね」
「ああ」
食事後、豆まきをして。二人暮しなので、どちらが鬼をやると言うわけでもない。…というより、絶対アンジェリークに鬼の
役を言い渡されそうなので、あえて触れない。
「鬼は外〜」
男が豆をまくものだから、とアリオスに豆をまく役は渡しても、掛け声はアンジェリーク担当。…というより、アリオスが嫌
がったからでもある。
「じゃぁ、豆を食べよ」
一通り撒き終えると、アンジェリークが豆の数を数えだす。
「数え年に一つ足して食べるのよ」
「ふぅん……。って、量が多くないか?」
「え、そう?」
にっこりと鮮やかな笑顔。アリオスに渡された豆はどう見ても30個をはるかに超えている。
(こいつ、わざとだな……)
おそらくは先ほどの意趣返しといったところか。だが、文句をいったところで聞く耳を持たないだろう。アンジェリークは
しれっとした顔で自分の豆を食べている。仕方なく、数え年に1つ足した数の豆を食べるアリオスであった。
「なぁ、来年は豆はいらねぇぞ」
「駄目よ、伝統行事なんだから」
意図に気づいたのか、楽しそうにアンジェリークは笑っている。来年に向けて、対策を必至にされてしまったアリオスは
ただ苦笑するしかなかった。
アリオス限定キリ番51413番を踏まれたのあ様からのリクエストで、節分話です。うちは孔です。ちなみに、もちろん、アンジェは判って
やってます(>_<)
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