Love is Fight




 女子校の教師をしていると言うと、大抵の人間は羨ましがるものだ。だが、それはあくまでも、彼らが抱いている幻想
だと、アリオスは思う。何故なら、彼自身が女子校の教師をしているからだ。自他共に認める名門女子高スモルニィ女
学院と聞くと、大抵の人間なら、感嘆のため息をつく。
(勝手な夢見んのは現実を知ってからにしろ)
 これが彼の持論。確かに彼は教師の中では若く、ルックスもいいため、生徒に人気がある。時々、告白してくる
生徒もいるわけではあるが、相手にできるわけがない。かといって、邪険に扱うと、
女子高生の団結力とやらで、他の生徒からも反発を食らってしまう。
「そんなんやったら、身を固めたらどないでっか。センセ」
 そう提言してくれるのは購買部のお兄さんであるチャーリーである。
「その言葉はお前さんにそっくり返してやるよ。理事長殿」
 そう、購買部のお兄さんとは仮の姿。チャーリーは実はこの女子校の理事長なのである。大財閥、ウォングループの
次期総裁である彼はその手始めとして、この学校の経営も任されている。購買部にいるのは生徒たちの学生姿を観察
するためだ。彼女達の普段の行動や言動を元に、学校運営を考えてゆくため。

 コンコン。この時間の購買部の事務室にくるのは教師か一部の生徒と言った限られた人間である。チャーリーは
振り返らずに声をかける。
「かまへん。入ってや」
「失礼します」
 その言葉と共に生徒が入って来る。
「噂をすれば、影やなぁ……」
 チャーリーの言葉にアリオスは軽く笑うだけで何も答えない。
「アリオス先生、かっぱりこちらにいたんですか」
「や、アンジェちゃん!」
「あ、どうも、こんにちは。チャーリーさん」
 軽く会釈すると、アンジェリークはアリオスに詰め寄る。
「委員会があるって、私、言いましたよね」
 口調は丁寧であるが、けっしてその顔は笑っていない。見慣れた攻防とは言え、チャーリーは何処か楽しそうに
見ている。
「聞いてはいたが、覚えているとは限らないだろ?」
「年齢のために記憶力が低下なさってるんですか? それは大変でしょうけど、今、思い出してもらいましたから」
 この学院の女学生の中で、アリオスに対し歯に衣を着せずに対する数少ない少女の一人である、と内心でチャー
リーは拍手を送る。自他共に認める勝ち気な性格と責任感の高さ故にだろう。
「さ、行きますよ。先生が来ないと、議題も進まないんですから」
「そこを何とかするのが生徒会長の手腕だろうが」
「ああ、もう御託はいいから来て下さい!」
 半ば、強引にアリオスの腕を掴んで引っ張って行こうとするアンジェリークにアリオスは軽く肩を竦め、抗いを止めて、
従うことにする。
「じゃ、失礼します」
「ああ、お構いなく」
 アリオスを連れて出て行くアンジェリークに手を振る。
「けったいと言うんか、破れ鍋に閉じ蓋いうんか、あの二人は……」
 アリオスが何だかんだと言いながら、教師としてやっているのはあの少女の存在故に、だ。
「ま、みていて楽しいけどな」
 そう呟くと、チャーリーはクスクスと笑った。

 委員会は通常通りの生徒会の報告と次の行事のことが議題であった。それなりの意見が提出され、議題にかけられ、
いつも通りに勧められる。
「では、他に意見などはありませんか?」
「……」
 特に手を上げる生徒はおらず、委員会は終了となる。
「レイチェル、明日で良いから、今日の委員会の議事録データベースに入れてね」
「オッケー」
 書記が記録した議事録を受け取るレイチェル。こうしておけば、後で委員会のデータが必要な時に取り出せるように
しているのだ。
「じゃ、ワタシは帰るけど、アナタは?」
「この報告書をあと少しで書き終わるから、もう少しだけ残るわ」
「待とうか?」
「いいの?」
 言葉とは裏腹に何処か確信犯めいた表情。
「いつものカフェに新作のケーキでてるし?」
「そうよね。お茶して行こうよ」
 寄り道は校則で禁止されているが、世の中杓子定規ではつまらない。
「じゃ、待っててね」
「うん」
 見事なまでの阿吽の呼吸。だが、世の中と言うものは時としてままならない。
「何だ、お前らまだ残ってんのか?」
「アリオス先生」
 おそらくアンジェリークたちが生徒会室の鍵を返しに来ないので、様子を見に来たらしい。
「あんまり遅くまで残ってんなよ」
「すみません〜。顧問と違って、うちの生徒会長は働き者なんで」
 にっーこりと笑顔を見せつつ、アリオスにパンチも忘れない。流石と言うべきなのか。
「レイチェル……」
 とりあえず、コメントは控えようとは思う。
「すみません。これが終わったら、帰りますから」
「あんまり遅いと親も心配するだろ? 二人とも俺の車で送ってやるよ」
「え……」
 その言葉にアンジェリークは戸惑い、レイチェルは何かを悟った顔になる。
「ワタシ、用事がありますので、アンジェだけよろしく〜」
 そう言うや否や、レイチェルは手早く荷物をまとめてしまう。
「ちょ、ちょっと、レイチェル〜?!」
 慌てて引き留めようとしてもその声は届かず。レイチェルはとっとと去ってしまう。遺されたアンジェリークは呆然とする。
「気が利く副会長じゃねえか。自分で言うだけあって、有能だな」
「何の関係が……」
 それでも、その言葉はアンジェリークを現実に引き戻すには充分であった。
「気にするな」
「気にします!」
「ふーん。そういうことを言う唇はな……」
「あ……」
 嫌な予感がして、逃げようとするが、その前に腕を掴まれて、そのまま口づけられる。
「ん……」
 与えられる口づけはいつも突然で強引。
「な、何するんですか〜?!」
「何をって…キスだろう。これ以上をお望みならいくらでもかまわねぇぜ?」
「そう言う問題じゃないでしょ! 学校でこういうことしないって約束したじゃない!」
 教師と生徒という立場上、秘密な関係だからこそ、気をつかうアンジェリークに対し、アリオスはそういう状況も楽しんで
すらいるようだ。
「気にするなって。約束って言うのは破る為にあるんだぜ? それにおまえだって、俺との約束を守ってねぇだろ」
「な、何がよ」
「二人きりの時は敬語と『先生』をやめるって……」
 甘く耳朶を噛まれて囁かれるその言葉にアンジェリークは身を竦める。
「そういう訳だ。送ってくから、早く仕上げな。いくらお前でも、見た目は名門の女子高生だからな。夜道はキケンだろ?」
「どっちがキケンなのよ……」
 呟いた言葉はアリオスには聞こえないように。そうでなければ、後が恐い。
「どうした?」
 まるで何もかもを見透かしたように笑うアリオスにアンジェリークは思い切りあっかんべーをしてみせた。

 その後の夜道が危険であったかどうかは神のみぞしる話である。

 


50000番を踏まれたかんな様からのリクエストです。あまあまかパラレルで女子高生と教師もの…だったので、
遠慮なく後者を取りました。学園物スキーなもので……。

< 贈り物の部屋 >