綺麗の理由
女の子は何時だって、欲張りな生き物である。少しでも綺麗に、少しでも可愛く。願い出したらキリがない。特に恋する
少女は、だ。
「おかしくないかな……」
そう呟いて、鏡の中の自分とにらめっこ。今日は日の曜日。週に一度、大切な人と一日を過ごせる日。そんな日だから
こそ、いつもより素敵な自分でいたい。そんなことを考えながら、アンジェリークは髪を梳かしてゆく。
「おはよう、アンジェ!」
「おはよう、レイチェル」
親友兼女王補佐官のレイチェルが何時もどおりにスケジュールの把握にやってくる。
「なんだ。お出掛けの準備か。最近、日の曜日はずっとそうだね」
「あはは」
ついつい乾いた笑いになってしまうのはレイチェルにも言えない秘密を抱えている後ろめたさから。
「たまにはさ、ワタシと女の子同士のラブラブデートしようね」
「そうだね。ここって、いろいろデートスポットできたし」
エレミアの育成も進み、新しい場所ができた。そのことを思いだし、クスクス笑いあう。
「で、今日はどうする?」
「うん、“約束の地”に行くつもりなの」
「OK! 気をつけてね」
「うん、わかってるわ」
そう答えて、部屋を出ていこうとする。
「あ、アンジェ!」
ドアを開ける寸前で呼び止められ、何だろうかと振り返る。
「何?」
「そのリップよく似合ってるよ。頑張ってね!」
親指を立てて、気合いを入れてくれる。照れくささを感じつつ、アンジェリークも返す。レイチェルの気遣いに感謝する。
レイチェルとて、アンジェリークをサポートするために色々と毎日走り回っているのに、そんなことを感じさせない。
(頑張らなきゃ、ね。私にできることを……)
そう心の中で自分に言い聞かせて、アンジェリークは“約束の地”に向かった。
「気付いてないのかな、あのコ。ここ最近、キレイになったんだってこと……」
それは恋する少女特有の魔法。本人よりも傍で見ているほうがよくわかる。クスクス笑いながら、レイチェルは窓辺から、
アンジェリークを見送った。
広い草原と小川と森へ続く小径と一本きりの大樹。それ以外には何もない場所。そこにアンジェリークの待ち人がいた。
「アリオス!」
「来やがったな、待ってたぜ」
アンジェリークは日の曜日はここに訪れる。こうして、アリオスが待っていてくれていて、アンジェリーク自身もアリオスと
時を過ごしたいと思っているから。
「それ、さっそくつけてきたのか?」
「うん。ここに来る前にレイチェルに似合うって言われたのよ」
嬉しそうにアリオスに話すアンジェリーク。それ、とは今アンジェリークの唇を彩るリップのこと。少しオレンジがかった
ピンクは少女の快活さと可愛らしさを一層引き立てる。
以前、“天使の広場”に二人で出掛けた時に、それを見て足を止めたアンジェリークにアリオスが買ったものだ。その時に
ある条件をつけて。
「俺以外の奴の前でつけるなって、言ったよな?」
「え、でも、レイチェルよ」
アリオスの指摘にアンジェリークは慌てて首を振る。アリオス以外の人間の前ではつけない、という条件。だが、守護聖や
協力者はともかく、毎朝アンジェリークのスケジュールを把握しにくるレイチェルに見られるな、というのはかなり無理がある。
それこそ、ここでつけなければならないが、アリオスの前でそういうことはしたくない。
「たとえ、おまえの親友でも譲れないもんはあるんだぜ。ま、俺より、そっちが大切だっていうなら、俺は身をひかなきゃなん
ねえしな?」
「アリオスの意地悪……。なんでそんなこと言うのよ……」
困ったようにアリオスを見上げてくる。そんな表情が可愛くて、つい困らせることを言ってしまうのだ。だが、あまり苛めては、
逆ギレされてしまうので、適当なところでキリをつける。
「マジで受け止めんなよ。ま、男には見せてないし、これで手を売ってやるぜ」
「え?!」
戸惑うスキもなく、唇を奪われる。それはあまりにも突然で、されるがままになってしまう。
「ちょうど、キスしたくなる唇になってるしな。悪くないだろ?」
「バカ……」
照れ隠しに睨みつけてくるが、潤んだ瞳では意味がないことをいつまでたっても学習しない。自分の前だけならいいが、
他の男には見せられない、などと内心で思う。
「そう怒るなよ。今度は服でも買ってやるから」
「服って……」
「おまえに似合うのを、な」
「うん……?」
申し出は嬉しいが、服を買ってもらったとしても、きっとアリオスにしかみせてはいけないと言われるのが目に見えている
から、返事にも複雑な色が混じる。
だが、アリオスの言葉はアンジェリークの予想とは違っていた。
「おまえ、いつもその格好だしな。俺が見立てた服を着たおまえが連中にどう見えるか、って思ってな?」
「そうなの?」
そういう申し出なら、受けてみたい。何よりもアリオスがどんな服を選んでくれるのか興味がある。
「よかった。また、俺以外には見せるなって言われるかと思ったの」
「馬鹿。いくら俺でもそんな無理は言わねぇよ」
「ありがとう」
嬉しそうに笑うアンジェリークにアリオスはククッと笑みをこぼす。アンジェリークとは別の意味の笑顔で。
(男が女に服を渡す時の常識をそろそろ教えてもいいよな……)
どんなに可愛い服を着たアンジェリークを目にしても、その中身を享受できるのは自分ひとりだけなのだから。
「楽しみにしてるね♪」
「ああ。待ってろよ」
はっきり言って、楽しむベクトルが思いっきりずれているが、それでも恋人達は幸せそうに笑顔をかわすのであった。
トロワ創作です。さて、問題です。アリオスは男が服を贈る理由を実践するでしょうか? ←書かなきゃ駄目?
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