あなたを愛している


  気が付いたら、そこは深い闇の中だった……。

「私、寝てたのよね……」
 今の自分の状況にアンジェリークは戸惑っている。かつての仲間であり、この宇宙へと侵略の手を伸ばした男との明日は決戦を
迎える。大事を取って、早めに寝たのだ。なのに、今、何故だか、意識がはっきりとしていて。見知らぬ場所にいる。
「夢の中にしては暗いなぁ……。夢は深層心理の現われだって言うけど……」
 すたすたと闇の中を歩いてゆく。怖いとは思わない。どこか知っている感じなのだ。クラヴィスの司る闇とは違った空気がここには
あった。
 しばらく歩いてゆくと、目が慣れてくる。そして……。
「誰かいるの?」
 人影を見つけて、駆け寄ってゆく。だが、そこにいたのは……。
「え……」
「何故、ここにお前がいる、アンジェリーク……」
 闇をその見に纏う青年の姿にアンジェリークは息を飲む。ここは自分の夢の中だったはずなのに。
「ここって、夢の中、よね?」
「夢の中?」
「だって、私は寝てるはずだもの。だから、ここは夢の中なのよ」
「精神体…か」
 レヴィアスはそっとため息をつく。ここは夢よりも深い場所。そして、闇に近い場所。夢を通じて、アンジェリークはここに導かれた
のだろう。
「早く戻れ。ここはお前のいるべき場所ではない」
「あなたはいいの?」
「我に似つかわしい場所だ」
 そう、この天使には光の元の方がよく似合う。闇に引きずり込むわけには行かない。
「ねぇ、やっぱりあなたとは戦わなければいけないの?」
「何を今更……。もう幕は下りたのだ。あとはどちらかが死ぬまで舞台は終わらぬ」
 突き放すようなその言葉にアンジェリークは瞳を曇らせる。
「私はあなたとは戦いたくないのよ」
「それこそ、甘いといっている。お前は女王だ。人の上に立つ者なら、そのくらいはわかるだろうが」
「でも、女王である前に私は一人の人間だわ」
 まっすぐにレヴィアスを見上げる。 
「私は、あなたが好きよ。ううん。愛している。誰よりも、愛しているわ」
 曇りのない瞳。いっそ、すがすがしさすらも感じさせて。
「よく、そんなことが言えるな。我は敵だ。しかも、お前たちを亡き者にして、この宇宙を支配下に置こうとするのだぞ」
「ええ。知ってる。でも、それでも、これが私の気持ちだから」
 その言葉に苛立ちを覚え、レヴィアスは強引にアンジェリークを自らの腕の中に引き寄せる。
「我はお前を殺すこともできるのだ……。お前を見てなどいない」
「……。知っているわ。でも、そんなことでこの気持ちは止められないのよ」
 そう告げて、アンジェリークは微笑する。それはとても鮮やかで美しくて。壊してしまいたくなる衝動に駆られるのに、それもでき
なくて。
「あなたにここで殺されるんなら、それは私の運命だったってことだわ。でも、いいよ。私は。だって、自分が女に生まれたわけが
わかったから」
「……?」
「あなたを愛するために生まれたのよ。だから、それを知ることができただけでいい。悔いのない人生だわ」
 くすくすと笑う。それはあまりにも無邪気で。それでいて、どこか危うい怖さを秘めている。
「アンジェリーク……」
「覚えていてね。私はあなたを愛しているわ。女王であることよりも、あなたを愛したことに生まれた意味を持ったの……」
 フワリ…とアンジェリークの身体が宙を舞う。そして、レヴィアスを抱きしめる。やがて、それは光の粒子となって消えていった……。
「今のは……?」
 拡散する光の中で呆然とするレヴィアス。天使の名残を残すのは、ただそれだけだった……。

 そして、夜は流れ、朝がくる。
「ん……」
 まどろみから、目覚めて、アンジェリークは瞳を開ける。
「何か、夢見てたっけ……」
 夢の中身は覚えていないけれど。妙に心がすっきりとしている。もう決めてしまった答えがあるからだろうか。
「待っててね、レヴィアス……」
 そう呟くと、アンジェリークは鮮やかに微笑する。それは少女のそれでも、天使のそれでもなく、一人の女としてのものであった。


実は由宇さまへのキリ番創作として、書いていたものだったりしますが、あまりにもアンジェが開き直っていたために、送れなかった
ものです。怖いわ、このアンジェ……。

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